63年続くミャンマーの民主化運動、「血と革命のシャツ」が世代をつなぐ

ミャンマーから夫婦でタイにやってきたニチョウさん、29歳。現在はデザイナーとしてタイ北部のチェンマイで働く

ミャンマー中部で第2の都市マンダレー出身のニチョウさん(仮名、29)。独学で身につけた技術を生かしてグラフィック兼ファッションデザイナーとしてタイ・チェンマイで生計を立てている。彼の代表作の一つが、1962年の軍事クーデターに関する新聞記事のコピーと2021年の春の革命で流れた学生の血のモチーフがプリントされたシャツだ。1962年から現在へと続く弾圧の歴史を可視化し、世代を超えて民主化運動が受け継がれてきた事実を象徴している。

このシャツに描かれたデザインは、ミャンマーの抵抗の歴史そのものだ。ミャンマー国軍のネウィン最高司令官が1962年3月に起こした軍事クーデターに対し、同年7月に抗議したヤンゴン大学の学生数百人は、治安部隊の銃弾に倒れた。その様子を伝えた米国の新聞記事のコピーと、抗議のさなかで流された血のモチーフがシャツに刻まれる。その袖には2021年2月の軍事クーデターに立ち向かったマンダレー出身の民主化運動家、テイザーサン医師の手書き文字がプリントされている。

「デザイナーとしても、近年のミャンマーの状況(軍事クーデターを契機とする「春の革命」)に心が大きく動かされた。デザインの3割は革命に関連させるよう意識している」(ニチョウさん)。デザイナーとしての彼の創作活動は、過去と現在の抵抗の歴史を結びつけ、その記憶を未来へと伝える役割を果たす。

彼がチェンマイにやってきたのはおよそ半年前だ。もともとデザイナーとして生計を立てており、デザインをどこかで学んだわけではない。芸術への関心は学生時代から強く、詩や物語を書くことに没頭していた。やがて表現の幅を広げ、現在は衣服のデザインを通じて自身の思想を形にしている。

ニチョウさんがデザインしたシャツは、チェンマイ郊外にある、ミャンマー民主化支援のセレクトショップ「ゴールデンランド」で販売されている。2023年6月にオープンしたこの店はミャンマーの民主化運動を背景にもつ商品を数多く取り扱う。春の革命で手足を失った若者を支援するための靴下や、シャン州南部の丘陵地帯で生産されたコーヒーなども並ぶ。

この店はニチョウさんをはじめとするミャンマーやタイのアーティスト・作り手の作品を売ることで彼らの生活を支援している。また、国外からミャンマーの民主化運動を支える。さらに、商品の生地や原料をミャンマーから調達し、現地の生産者の生計を助ける役割も担っている。

ゴールデンランドの立ち上げに参画したコーラルさん(仮名)はミャンマー中部のエーヤワディー管区出身。チェンマイに来て3年経つ。「タイとミャンマーで暮らし、さまざまな仕事をするミャンマー人たちに収入を得る機会を提供できている。この店を開いたブリアナさん(創業者の米国人女性)のアイデアに感謝している」と語る。

チェンマイ郊外にあるセレクトショップ「ゴールデンランド」。服、ポストカード、コーヒー、ピーナツバターなど、店内にはさまざまな商品が並ぶ。お土産を買いに立ち寄る観光客も少なくない

ミャンマー最大の都市ヤンゴンからタイに来て3年のコーラルさん。タイ北部チェンマイにあるセレクトショップを共同で立ち上げた

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