人間のような意思決定能力を備えたAIエージェントが登場し始めた。Microsoft、SAP、Salesforceら6社が発表したAIエージェントの特徴と各社のAIエージェントに関する考え方をまとめた。
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大手企業から発表が相次いでいるAIエージェント。MicrosoftやSAPをはじめとするソフトウェアプロバイダーは、企業の財務や他のビジネス機能でタスクを実行するように設計された新しい「AIエージェント」をここ数カ月で次々と発表している。
AIエージェントによって、AI変革の新たな波を引き起こしているが、その背景にあるものとは何か。また、各社が打ち出すAIエージェントの特徴とは。
MicrosoftやSAP、Salesforce、ServiceNow、Oracle、Workdayが発表したAIエージェントの情報を見てみよう。
その前に、AIエージェントの全体的な状況を紹介する。アナリストによると、IT業界の最近の動きは、生成AIに関する2年間の実験期間が終わって多くの経営幹部が自社にとって最適な価値を提供するAI投資を求める「圧力」の高まりが背景にあるという。2022年11月に「ChatGPT」が登場したことで高まった生成AIブームの初期段階が落ち着き始めていることも影響している。
Gartnerのマーク・マクドナルド氏(シニアディレクターアナリスト)は「人々がAI技術のとりこになっていた時期があったが、試しに最初の一歩を踏み出したところ、得られた結果はさまざまだった。多くは『まあまあ』という印象だったようだ」とインタビューで語った。
同氏は、最近話したユーザー企業は、AI導入において「実験やアイデアを模索する段階は終わった」と述べているという。
「現在はAIに対する野心を具体的な計画に落とし込んでいる段階だ」(マクドナルド氏)
世界4大会計事務所の1社であるKPMGは2025年1月9日(現地時間)に発表した調査結果発表で、「これからの1年は企業全体でAI機能を拡張、強化するチャンスだ。そのために多くの企業がタスクを自律的に実行してリアルタイムで適応できるAIエージェントに注目している」と述べている(注1)。
同社の調査によると、51%の企業がAIエージェントの利用を検討しており、さらに37%がAIエージェントを試験的に導入しているという。
シリコンバレーのベンチャーキャピタリストであり、カリフォルニア大学バークレー校で講師を務めるショミット・ゴーシュ氏は、「AIエージェントは人間のような意思決定能力を持って複雑なタスクを処理できる。IT業界に革命をもたらす可能性がある」と話す。ただし、同氏は「同時に、誤りを事実であるかのように主張するハルシネーションを発生させるリスクもある」とも警告する。
同氏は、AIエージェントによるリスクを軽減するには、「透明性のある設計や強力な安全対策、ガバナンスによって被害を最小限に抑えつつ利益を最大化する必要がある」と、2024年12月にカリフォルニア大学バークレー校のSutardja Center for Entrepreneurship and Technologyで発表した論文で述べた(注2)。
「最終的にはAIエージェントが完全に自律的にタスクを処理することはないだろう。特に実際に行動が必要な場合は。人間が常に関与する必要がある」(ゴーシュ氏)
ここからは、AIエージェントを開発・提供しているテック企業大手による発表内容を見てみよう。
SAPは2024年10月、同社が毎年開催しているカンファレンス「SAP TechEd」の中で、生成AIコパイロット「Joule」を補完するためにAIエージェントを含む新たな技術のローンチを発表した(注3)。
プレスリリースによると、請求書支払いや請求書処理、元帳更新を自動化し、不整合やエラーに迅速に対処することで主要な財務プロセスを効率化するために設計されたエージェントもその中に含まれるという。
同社のウォルター・サン氏(AI部門グローバル責任者)は「2026年にはさらに多くのAI関連の展開があるだろう」とインタビューで語った。
サン氏によると、同社はAIのリスク軽減策の一環として「常に人間が関与すべき」という方針を支持しているという。
「Jouleや当社のAIエージェントはユーザーに推奨事項を提供するが、それを検証してどのように行動するかを決定するのはユーザーだ」(サン氏)
同社はAIエージェントを一般公開する時期や価格設定についてはまだ公表できないとしている。広報担当者は、2025年2月13日に開催されるバーチャルイベント「SAP Business Unleashed」で発表する予定だと語った。
ServiceNowは2024年9月、「多様なユースケースにわたって大規模な展開」が可能なAIエージェントを自社が提供するプラットフォームに統合する計画を発表した(注4)。
この発表の後、同社はカスタマーサービス管理とITサービス管理に携わる2つのAIエージェントのユースケースを公開した。
同社のカーステン・ローゲリング氏(財務およびサプライチェーンワークフローのプロダクトマネジメント担当バイスプレジデント)は、「当社は現在、AIエージェントを財務や調達、人事などの機能を含むさらなるユースケースに拡大することに注力している」と電子メールで述べた。
ローゲリング氏によると、多数の財務関連AIエージェントのユースケースが、2026年に向けて検討されている。これには市場変動や信用不履行、詐欺などの潜在的リスクを評価するツールや請求書管理プロセス全体を自動化するツールなどが含まれる。
価格設定について、ローゲリング氏は次のように述べた。
「AIエージェントの価格とパッケージに関するアップデートは近日中に発表する予定だ。初期の顧客に対しては、生成AI関連の利用量を当社の『Assists』機能で測定した上で価格を決定していた。最終的には、AIエージェントとのインタラクション数に応じて価格が変動する形にする予定だ」
Oracleは2024年9月に開催された年次イベント「Oracle CloudWorld 2024」で、「Oracle Fusion Applications Suite」で50以上の役割を担うAIエージェントをリリースすると発表した。「これらのAIエージェントは財務やサプライチェーン、人事、営業、マーケティング、サービス全体における生産性を新たなレベルで達成することを目的としている」とプレスリリースに記載されている。
同社は他ツールでも、「特定の事業部門の収益が予測を外れているかどうかを四半期末前に検出するために、勘定科目の残高や例外、異常を監視、分析する元帳エージェント」や「内外のデータを利用して収益予測を提供する高度な予測エージェント」を展開している。
2024年9月に発表されたAIエージェントの中には既に顧客が利用しているものも含まれている。「具体的には顧客体験やサプライチェーン、人事におけるユースケースがある」と、Oracleの製品管理グループバイスプレジデントであるハリ・サンカー氏は電子メールで述べた。「Oracle Cloud ERP」と「Oracle Cloud EPM」における財務ユースケースは2025年に展開される予定だ。
「2025年はOracle Fusion Applications Suite全体でAIエージェントの能力を広げ、深化させることに焦点を当てている。勘定科目の調整やサプライヤーによる支払いなどのプロセスを強化するための新しいAIエージェントも導入する予定だ。OracleのAIエージェントはOracle Fusion Applications内で動作し、ハルシネーションを低減し、より正確な応答と強力なパフォーマンスソリューションを提供するために、RAG(検索拡張生成)を使用している」(サンカー氏)
Workdayは2024年9月に開催された年次イベント「Workday Rising」で、財務や人事に関連する機能を変革することを目的とした「Workday Illuminate」フレームワークの一環としてAIエージェントのリリースを発表した。
同社のAIエージェントの目的について、「人間を補助し、拡張することを目的としている。人間と置き換えることは目的としていない」とWorkdayのカール・エッシェンバッハCEOは、ネバダ州ラスベガスで開催された同イベントの基調講演で述べた。
同社は、発表したAIエージェントについて「エンドユーザーにとってビジネスプロセスを大幅に簡素化し、職場での人間の能力を高めることを目指している。今後も多くのエージェントがWorkdayから登場する予定である」とリリースで述べた。
今後は、職務記述書の作成や人材の募集、面接のスケジュール設定などのタスクを自動化するリクルーターエージェントや、クレジットカードによる取引と領収書を一致させて自動的に経費記録を作成する経費エージェント、将来のリーダーを特定して育成するためのサクセッションエージェントを展開する予定だ。
同社のプレスリリースによれば、リクルーターエージェントは同社の「HiredScore」プラットフォームで即時に利用可能となる。2025年春にはHiredScoreとWorkdayとの統合がさらに進化する予定だという。経費エージェントとサクセッションエージェントは2025年初頭に利用が開始される予定だ。
Workdayのアンディ・カーショウ氏(CFO《最高財務責任者》、グループゼネラルマネージャー)は、同社はAI機能に追加料金を請求するのは「ビジネスプロセスを完全に変革する場のみ」と「CFO Dive」の取材で述べた。
Workdayは「責任あるAI」という原則と、国際組織や政府によるAI規制について、「リスク軽減アプローチの一環として支持している」と述べた。
Microsoftは2024年10月下旬に、ERP機能を備えた「Microsoft Dynamics 365」プラットフォームにおいて、財務専門家向けの2つを含む10のAIエージェントを導入することを発表した。
「Microsoft Dynamics 365 Finance」用の新しい勘定科目調整エージェントは、「補助元帳と総勘定元帳間の取引の照合と消し込みを自動化し、決算手続きを迅速化するのに役立つ」と、Microsoftのバイスプレジデントであるブライアン・グードがブログ記事で述べた。同社はまた、データセットの準備とクレンジングを支援する新しい財務調整エージェントを導入している。
ソフトウェアの巨人である同社は、AIエージェントが一般向けに完全に展開されるかどうかと価格設定について公表する準備ができていないと述べる。「AIエージェントがパブリックプレビューに到達する数週間の間に、より多くの詳細を共有することを楽しみにしている」と、同社のジョルグ・グランツニグ氏(MicrosoftのDynamics 365 AI ERPバイスプレジデント)は電子メールで述べた。
Salesforceは2024年9月に「Agentforce」を発表した。顧客サービスや営業、マーケティング、ECサイトのタスクを処理し、「前例のない効率と顧客満足を追求する」ことを目的としたAIエージェントのスイートを提供している、とプレスリリースで述べた。
「われわれのビジョンは大胆だ。2025年末までにAgentforceで10億人の人間の担当者を支援する」と同社のマーク・ベニオフCEOはプレスリリースで述べる。「これがAIのあるべき姿だ」
Agentforceは全てのSalesforce製品およびアプリケーションで機能する。展開により企業の財務部門や営業部門、マーケティング部門を含むさまざまな部署に影響を与える可能性があるという。
「例えば財務においては、カスタム構築された銀行エージェントが顧客サービスの問い合わせを迅速に処理し、取引でトラブルが発生した際の解決の迅速化などの複雑なタスクを自動化できる」と述べる。「AIエージェントはアカウント情報から最近の取り引き履歴を引き出し、顧客とともに未承認の料金を特定し、問題がある取引について該当する取引先に連絡する。AIエージェントは、人間の担当者が関与する前に顧客に暫定的に返金することも可能だ」(ベニオフ氏)
(注1)KPMG AI Quarterly Pulse Survey(KPMG)
(注2)The Next “Next Big Thing”: Agentic AI’s Opportunities and Risks(SCET)
(注3)SAP Supercharges Copilot Joule with Collaborative Capabilities to Ignite Enterprise AI Revolution(SAP)
(注4)ServiceNow to unlock 24/7 productivity at massive scale with AI agents for IT, Customer Service, Procurement, HR, Software Development, and more(ServiceNow)
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