ベトナムのオフショア開発事情知っていますか?世界のオフショア事情(2)(1/3 ページ)

前回はインドのオフショア事情を紹介したが、今回はベトナムにおけるオフショア開発事情やベトナムの気質など幅広く紹介する。

» 2008年05月13日 12時00分 公開
[霜田寛之(オフショア大學 講師),Global Net One株式会社]

 ベトナムにおけるオフショア開発は、2〜3年ほど前から「アツい」と注目されています。

 しかし残念ながら、いまのところ「アツく爆発的に広がる」という状況ではなく、“大手を中心にジワりと広まりつつある”というのが現状です。そんなベトナムオフショアの魅力と、付き合う際のポイントをこれから数回に分けてお伝えします。

オフショア開発国としてベトナムが台頭してきた

 中国における反日デモや、病気の蔓延(まんえん)などによる機能停止(または縮退運転)という事態が起きた際に、「中国への一極集中リスクに対する回避地」として、ベトナムが注目されるようになりました。

 ベトナムは小中国といわれるほど、中国漢字文化圏の影響を受けていながら国全体が日本を向いており、逆に中国に対しては対中デモが行われるなど興味深い国です。

 ベトナムは、国家としてIT産業を“国の発展のための重要な産業”と位置付け、若くて勤勉な国民性を武器に、日本や欧米からアウトソーシング業務を受け入れる体制を整えています。

「戦争からの発展」という日本との共通点

 ベトナムの歴史は「戦いの連続の歴史」であるともいえます。ベトナム戦争に代表される幾多の戦いを経て、ベトナムは国民全体の非常時における結束力の高さと精神力の強さ、粘り強さを身に付けていることが証明されました。

ALT ホーチミン市の帰宅ラッシュの様子。バイクと歩行者であふれかえっている

 ボロボロのサンダルでゲリラ戦を戦い抜いた魂は見上げるものがあります。ベトナム人の粘り強さを筆者自身の経験で表すとすれば、例えば品質保証部門の担当ベトナム人の執着心は日本の品質保証部門と同程度で、開発部隊としては恐れおののきました。

 また、ベトナム人女性と付き合うと「男は浮気する」という前提の下で常に疑われ、しつこく監視されます。

 ベトナム戦争後の急速な復興も、ベトナム国民の結束力の高さ、精神力の強さ、粘り強さによるものが大きいと思います。日本が戦後から高度経済成長期にかけて急速に発展したのと同様に、ベトナムはいままさに歴史が動いていることを実感できる国であるといえます。

 また、漢字文化や箸(はし)文化、米食文化、大乗仏教でありながら実態は無宗教状態、年功序列文化、チームプレー主義、手先の器用さ、職人気質、勤勉な性格など、多くの共通点があり、日本との相性が良いとされています。

 戦後急速に復旧し、経済発展を遂げた日本を非常に尊敬しており、ベトナム人は洗脳されているのかと思うぐらい、「日本を尊敬している」という人が多いように感じられます。

 政府から国民まで、全面的に日本を好意的に思ってくれているのは非常にありがたいのですが、だからといって、日本がいままさに直面しているエンジニア離れの道筋までこの国にたどらせる必要はなく、「日本万歳」からどこかの時点で明確に「ベトナム流」を確立させる必要が出てくると思います。

ベトナム人エンジニアのコンテキストは?

 文化的な共通点と相違点を認識することは、オフショア開発のマネジメントに少からず役立ちます。そこでここでは前段として、若干テクニカル的な話題とは直接関連しない、ベトナム文化について少し触れたいと思います。もし興味がなければ、読み飛ばしてください。

 筆者はどこの国に行っても、外国人が泊まるようなホテルでの滞在よりも、ホームステイであったり、何らかの手段で現地の人と同じ生活スタイルで暮らしてみることを好みます。その中でもベトナムは不思議と落ち着ける国です。ベトナムに一度旅行に来てハマる日本人が多いのも納得してしまいます。(比較対象として適切かどうかは別にして)シリコンバレーも楽しかったですが、ハマり度は格段にベトナムの方が上だと筆者は確信しています。

 ベトナムは中国の影響を強く受けていることはすでに述べましたが、公用語であるベトナム語も多くが漢字に由来する言葉です。

 発音も日本の熟語と似ている言葉が多くあります(注意:チューイー、公安:コンアン、日記:ニャッキなど)。また表記はアルファベットに似た文字を使用します。多くのベトナム人が自分の漢字名を知っており、漢字文化にもアルファベット文化にも親和性の高い国であることがうかがえます(中途半端ともいえますが)。

 また、宗教は大乗仏教であり、和を重んじる点が日本に通じます。さらに、年上であるというだけで無条件に尊敬されるといってもよく、逆に自分と同じ年であることが分かるとより一層連帯感を持ってくれます。従って、本音を引き出すには若手日本人が、少し強く出たいときには年長者の日本人が出ていくのが得策です。

 とはいえ、生活の中での宗教色は強くなく、日本の無宗教状態に似ているので、常駐する際に現地の宗教に縛られる必要がありません。その点は楽だといえます。

 また、ベトナム人は人と人とのつながり、特に家族とのつながりを非常に重視します。例えば、エンジニアが残業をして家に帰る時間が遅くなることを、エンジニア自身は「仕事でチャンスをつかみたい」と思って受け入れる傾向にありますが、彼の家族を気遣う気持ちを常に理解しておくことが、信頼関係を構築する上で必要です。

 人と人とのつながりという意味では、日本と同等かそれ以上に“コネ社会”です。もしベトナム進出を考えているのであれば、現地に詳しい人の力を借りることが、ほかのどこの国よりも必要になってくるといえるでしょう。

 文化の域にまで達しているのがバイクです。一度でも行ったことのある方はその数に驚かれると思いますが、とにかく数が多いです。それにもかかわらず、

  • 2007年末まではヘルメットを誰もかぶっていなかった
  • 横断歩道、信号が多くない(あっても守らない)
  • 逆走する・横切る
  • 4人乗りなど、家族の移動手段に使う

などの理由で交通事故による死亡率が非常に高く、危険極まりません。

 プロジェクトをしていてリーダーが事故を起こした、ということもありました。軽い事故だったから良かったものの、そのリーダーに負担がかかって疲労が蓄積しており、プロジェクトの遅れというレベルではなく人命にかかわるところでした。

 ただし2007年末にはヘルメット着用の義務化が始まり、これから段階的に交通環境の整備がされていくことでしょう。これでパートナー企業の従業員が事故で出社しないというリスクが少しは減るのではないでしょうか。

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