研究 / Research

情報学プリンシプル研究系

志垣 俊介
SHIGAKI Shunsuke
情報学プリンシプル研究系 助教
学位:博士(工学)
研究内容:https://researchmap.jp/sshigaki

研究紹介

自然知能の人工化を目指して

コンピューターの高性能化に比例して、人工知能も目覚ましく発展しています。特に、コンピューターが学習したデータに基づき、新たなデータや情報を提示してくれる生成AIは驚くべき成長を遂げ、便利なツールとして生活に浸透してきています。私たちヒトを含めた生物と比べれば、高速に計算したり、画像や音声を的確に認識できるため、すべての事柄に対処できるような気がしますが、実は解決すべき課題は山積みです。例えば、コンピューターの一部が停電や劣化によって故障した時、コンピューター自ら修復することはできません。生物のような自然治癒能力を人工物が持っていないことも要因の一つですが、人工知能が「身体」を持っていないことも大きな原因の一つだと考えられます。「身体」を持つことで、人工知能は能動的に世界を経験できますし、もしかすると故障等の有事にも対応できるようになるかもしれません。自然界に目を向けると、哺乳類に比べて圧倒的に神経系が小規模な昆虫は、脚が一本無くなったとしても歩き続けることができ、生存と繁栄ができています。生物の強みはその柔軟さや頑健さにあると考え、どうやったら生物(自然)が持つ知能を人工化できるのか、ということを念頭に置き研究をしています。

昆虫から学ぶロボット設計

 自然知能の人工化の第一歩として、小規模な神経系から構成される昆虫をターゲットに研究を展開しています。特に、蛾類の持つ優れた嗅覚に焦点を当てて、彼らの賢さを人工的に再現できないかどうかに挑戦しています。

 蛾類に限らず多くの生物は匂いを用いてコミュニケーションや空間の認知を行っています。これはヒトに比べて視覚が劣っていることも考えられますが、波動で伝播しない匂いは拡散性や持続性の観点で非常に優れており、情報が空間に残り続けます。空間の匂いを辿っていけば、発生源を特定できますが、実は風や障害物の影響で匂いの拡散は非常に複雑です。そのため、現状のロボットや人工知能ではすべての状況に対処できないことから、人工的なシステムには解決困難な問題の一つであり、ロボットに嗅覚を実装する研究が後進的である理由でもあります。一方で、先ほども述べた通り、蛾類は身体をうまく活用したセンシングであったり、複数の感覚器からの情報を統合し、状況適応的に振る舞いを決定・調整することでリアルタイムにこの問題に対処しています。この賢さを生物から取り出し、人工的に再現できれば、ロボットの活躍の場が広がるのではないかと、期待しています。

ロボットは生物を超えられるか?

 どれほどの時間がかかるかは定かではありませんが、生物と同等もしくは生物以上のロボットを開発したいと考えていますし、出来るはずだと信じています。そこで重要なのが表層だけをみないことです。「自然」がやっていることには何らかの理由があり、その理由を探ることには価値があると考えています。例えば、カイコガは翅があるにも関わらず、飛ぶことができません。一見するとエネルギー効率が悪く、無意味に見えるかもしれません。しかし、カイコガ周囲の気流を可視化してみると、羽ばたきによって匂いを引き寄せる効果があり、これが効率的な匂い追従能力に寄与していることがわかっています。このように目で観測できる部分はごく一部ですが、「理由」の多くは隠されており、これを発見できるかどうかがカギだと感じます。そのため、私の研究では、実際に生き物を対象とした実験を形態・行動・生理等の観点で実施し、隠されたエッセンスがどこにあるのかを探しています。エッセンスの抽出によって、人工的もしくは工学的に再構成することができるようになるため、生物のような柔軟さや頑健さを持ったロボットが構築できるのではないかと考えています。人工的に再現する際に、必ずしも生物の身体構造や感覚器数などを真似しなくても良いため、うまくいけば生物以上の機能を発揮するロボットの創成が可能になるのではないかと期待して、研究を進めています。

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執筆:志垣俊介 2024年1月更新

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