(2025/2/28 12:00)
軌道から離脱 大気圏で燃やす
世界で宇宙開発が加速する中で、ロケットの上段部分や寿命を迎えた衛星などの宇宙デブリが増加している。宇宙機への衝突の危険性もあるため除去する手法が検討される中、最先端で研究しているのがアストロスケール(東京都墨田区、加藤英毅社長)だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と開発した衛星で宇宙デブリに接近し、撮影に成功。2027年にもデブリを捕獲・軌道離脱して除去する手法の確立を目指す。
今回は、商業デブリ除去実証衛星「ADRAS―J」を開発し、16年前に打ち上げた大型基幹ロケット「H2A」15号機の上段に接近して写真を撮るミッションを実施。24年2月にADRAS―Jを打ち上げ、H2A上段部分まで約15メートルの地点に接近できた。観測は定点観測だけでなく、デブリの周りを360度回って撮影する周回観測にも挑戦。15年以上宇宙空間にさらされたH2Aの上段部分の状況を把握できた。JAXAの岡本博之氏は「塗装の変色や断熱材の劣化などは見られたが、金属材料の構造変化はなかった」と説明。姿勢もほぼ静止しており、次のミッションのターゲットになり得ると見ている。
今回のミッションが成功したことで、27年に予定している次期ミッションへの挑戦が決まった。今回観測したH2Aの上段部分を衛星で捕獲して、軌道から離脱させる。そうすることによって、数年間かけて徐々に降下して大気圏に再突入し、燃え尽きてデブリを除去する仕組みだ。JAXA商業デブリ除去実証チームの山元透チーム長は「デブリが静止しているため、捕獲しやすいことが分かった。JAXAはデブリに関する研究は進めてきたが、実証実験は初めての挑戦」と意気込む。実証に成功すれば、世界初のデブリ除去技術の確立につながると期待される。
宇宙デブリは増え続けており、特に20年以降に急増している。世界各国が宇宙開発に乗り出し、数多くの宇宙機などをロケットで打ち上げていることで技術開発は促進している。一方で、老朽化した衛星や打ち上げ時に分離したロケットの上段などが“ゴミ”として宇宙空間に漂っている。宇宙デブリは運用中の衛星や探査機などに衝突して故障・破壊する可能性もあり、除去する方法が考えられてきた。
アストロスケールでは、宇宙デブリへの対策を含めた軌道上サービスの確立を目指して研究開発を進めてきた。同社の加藤英毅社長は「今回のミッション成功が提供するサービスの信頼性向上につながるだろう」と期待する。宇宙デブリの除去だけでなく、寿命が近い宇宙機に燃料を補給して延命することでデブリ化を防ぐ技術の構築も目指している。
加藤社長は「高速道路を走りやすく整理するように、宇宙空間の軌道も整理する必要がある。将来的に安全保障プログラムに貢献したい」と展望する。日本初の技術で宇宙空間を“掃除”し、利用しやすい空間を作り上げていく。
(2025/2/28 12:00)
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