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2017年03月25日公開

朴槿恵大統領罷免に見る民主主義のもう一つの形

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第833回)

完全版視聴について

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ゲスト

1945年群馬県生まれ。69年慶応義塾大学法学部卒業。72~74年延世大学校大学院政治外交学科研究生。75年慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。法学博士。慶応義塾大学法学部専任講師、同大学助教授などを経て85年より教授。2011年同大学を定年退任し名誉教授。著書に『韓国における市民意識の動態』、『ポスト冷戦の朝鮮半島』、共著に『隣の芝生はなぜ青く見えないか』、『危機の朝鮮半島』など。

著書

概要

 お隣韓国の政治が喧しい。

 朴槿恵(パク・クネ)大統領が友人の崔順実(チェ・スンシル)氏と通じて職権を乱用したとされる、所謂「民間人による国政壟断疑惑事件」はついに大統領の罷免と、検察による大統領への長時間の事情聴取へと至り、いつ逮捕状が出てもおかしくない切迫した状況を迎えている。

 日本人の感覚からすると、現職大統領が犯罪の疑いをかけられた上に罷免され逮捕にまで至るという事態は、国家の非常事態としか思えないところがあるが、実は韓国ではこれまでも 元大統領が逮捕・起訴され有罪判決を受けるケースは数多くあった。

 全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)、両元大統領はいずれも有罪判決を受けているし、日本ではよく知られる金大中(キム・デジュン)元大統領も親族がらみの資金疑惑で有罪判決を受けている。最近では盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が、不正資金疑惑をかけられた親族が横領や贈賄容疑で逮捕された上に、本人が検察の事情聴取を受けた直後に岩崖から投身自殺するといった衝撃的な事件も起きている。

 これは韓国の政治はそこまで腐敗しているということを意味しているのか。

 朝鮮半島情勢に詳しい慶応大学の小此木政夫名誉教授(現代韓国朝鮮論)は、大統領が軒並み逮捕される状況を理解するためには、韓国の政治の背後にある特異な行動原理を知る必要があると説く。

 韓国の政治は政治主導者である大統領に忠誠を尽くす私的なネットワークである「制度圏」と、社会正義を実現するために市民、インテリ、学生らが運動を通じて政治に参加する「運動圏」の2つの行動原理で動いており、通常は両者のせめぎ合いの中で微妙なバランスを保っている。「制度圏」は歴代の政権では親族がその役割を果たしていたが、両親を暗殺され家族もいないパク・クネ大統領の場合、親の代から親しくしていたチェ・スンシル氏がそこに入り込んだ。そして、一民間人に過ぎないチェ氏に大統領が演説の原稿を事前に見せていたことが暴かれたことで「制度圏」に対する不信感に火がつき、「運動圏」の怒りが爆発したのだと小此木氏は語る。

 これは韓国の政治が特別に腐敗しているとか民主主義が未熟であるというよりも、単に韓国の政治のスタイルが日本や他の国々と異なっているのだと理解するべきだと、小此木氏は強調する。

 韓国の政治に参加民主主義の要素が非常に強いことは高く評価すべき面がある一方で、それがあまりにも強く働き過ぎると、政治が不安定化する原因にもなり得ることを、今回の朴槿恵の事件は示しているということのようだ。

 とはいえ、北朝鮮の度重なる核実験やミサイル発射などで、東アジア情勢は緊迫の度を高めている。そのような状況で、韓国に政治的空白が生じることは、東アジア全般の不安定要因となる。韓国では5月9日に大統領選挙が予定されているが、小此木氏は金日成の誕生日や北朝鮮人民軍の設立記念日にあたる「建軍節」を控えた4月の中旬から下旬に、北朝鮮が大きな軍事行動に出る危険性が高いと警鐘を鳴らす。今のところ、大陸間弾道弾(ICBM)の発射実験のような、アメリカに対する直接のメッセージとなる行動に打って出る可能性が高いと小此木氏は観測する。

 韓国に今何が起きているのか。現在の政変は韓国経済や東アジアの安全保障にどのような影響を与えるのか。日本はどう対応すべきなのか。朝鮮半島情勢の第一人者の小此木氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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