『花嫁』:19世紀末のウクライナ西部。馬泥棒のせがれグレゴールは親父に引きずられて悪の道へと進んでいくが、おそらくは向上心にそそのかれて、あるいは親父の小心さに愛想を尽かして、親父の一党とたもとを分かつ。そして密輸業者となって裏の世界への足がかりを独自に作り、それなりの評判を得ることに成功する。やがてグレゴールは町でヴィリという名の女と出会い、激しく惹きつけられていくが、女にはすでに夫があって、息子があった。(『雲雀』所収、初出:別冊文藝春秋2003/5) 『天使』:『花嫁』の結末からおよそ10年後。ブダペストで養父とともに赤貧のなかにあったジェルジュは養父の死後、顧問官と名乗る男のもとへ引き取られ、ウィーンに暮らして紳士として振る舞うための訓練を受ける。成長したジェルジュは特殊な能力を開花させて顧問官の配下で働く一人となり、戦争前夜にはペテルスブルクに潜入して無政府主義者の愛人をつくり、