今回は、各学術分野別の論文数の推移を、論文絶対数および人口当り論文数で列挙していきます。日本の「強み」「弱み」を知ることが目的だったのですが、前回のブログで、日本はすべての学術分野で弱くなっており、すでに効果的な「選択と集中」ができるような状況にはないことをお話ししましたが、今回の検討でも、同じ感想を持ちました。
特に、日本のお家芸と言われた「物理・化学・物質科学」分野の論文数が、2004年の国立大学法人化を契機に、明確に減少しているカーブは、何度見ても衝撃的です。もう、そんなカーブを見せられても慣れっこになって、何も感じない人もいるかもしれませんが・・・。
そして、韓国、台湾、中国などの新興国が、日本が過去に優位性を保っていた産業競争力を凌駕したことについて、技術の流出や経営戦略の失敗が原因であると言われていますが、今回の分析結果から、彼らは一朝一夕に日本を抜き去ったのではなく、大学の研究力を高めてその分野の学術論文数を増やすという正攻法でもって、日本を抜き去ったことがわかります。
日本人はもっと謙虚になるべきだと思いました。
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3)日本と海外の分野別論文数の推移
日本および海外諸国における、各学術分野別の論文数(絶対数および人口当り)の推移を図85~図102に示した。なお、論文数は3年移動平均値で示してあり、例えば2000年の論文数とは、1999年~2001年の平均値である。
情報・エンジニアリング以外の分野では2000年~2012年の推移を示したが、情報分野(computer science)の論文数がトムソン・ロイター側の学術雑誌の分類変更によると考えられる階段状の減少が2006年から2007年にかけて見られるので、情報・エンジニアリング分野の論文数については、2008年以降の3年移動平均値で示した。
臨床医学分野については、論文絶対数(図85)では米国の強さが目立つ。日本は5位につけており、緩徐な増加傾向を示している。しかし、人口当り論文数(図86)では、日本は先進国中最低となっており、また、台湾や韓国よりも少ない。
薬・バイオ分野(図87、図88)についても臨床医学と同様の傾向である。
情報・エンジニアリング分野では、論文絶対数(図89)では中国の躍進が目覚ましく、アメリカをすでに追い越している。日本の順位は7位であり、人口が5千万人しかいない韓国に、すでに絶対数で追い抜かれている。なお、情報分野(computer science)だけに限ると、日本は11位であり、韓国はもちろん、人口が2300万人しかいない台湾にも追い抜かれている。
情報・エンジニアリング分野の人口当りの論文数では、台湾の健闘ぶりが目立つが、日本は、他の多くの国とは一線を画す形で低い値である。
物理・化学・物質科学分野では、論文絶対数は中国の躍進が目覚ましく、すでに米国を上回っている。日本は、この分野では過去に強みをもっていたが、2004年以降明確に論文数が減少し、現在4位となっている。人口当り論文数でも、2004年以降その順位を大幅に下げている。ただし、米国はこの分野は比較的弱い部分であり、日本よりも低い順位となっている。
農林水環境分野では、論文絶対数では米国が1位、中国が2位であり、日本は8位となっている。人口当り論文数ではニュージーランドが健闘し、日本は先進国中最下位である。
地球・宇宙分野では論文絶対数では米国が1位、中国が2位、日本は8位、人口当り論文数では日本は、最下位ではなく韓国よりも上の順位となっている。
数学分野では、論文絶対数では中国が米国に追いつき、追い越している。日本は7位である。人口当り論文数では、日本は他の諸国よりも一線を画して低い値であり、韓国にも引き離されている。
社会科学分野では、論文絶対数については、米国、イギリスが多く、中国は8位にとどまっている。日本は15位であり、人口が2300万人の台湾よりも少ない。人口当り論文数では、日本は韓国よりも少なくなっている。
複合分野では、日本も海外諸国と同様に増加傾向にあるが、論文絶対数では5位、人口当り論文数では、韓国よりも上回っているが、低い順位である。
図103、図104に、日本および全世界の各学術分野別の論文数の推移を示した。日本の場合、メジャーな存在であった「物理・化学・物質科学」の論文数が2004年以降、顕著に減少していることがわかる。また、薬・バイオについても、減少しつつある。一方臨床医学については、最近やや増加傾向にある。
他の分野については、情報・エンジニアリングについては停滞~減少傾向、それ以外の分野については増加傾向にあるものの、図104に示す海外の論文数の増加率に比較してわずかであり、その差は拡大し続けている。
<含意>
各学術分野の論文数の推移を日本と海外諸国で比較検討したが、いずれの分野においても、日本の凋落ぶりが目立つ。特に、日本の「強み」であった「物理・化学・物質科学」の論文数が2004年という国立大学が法人化された年に一致して明確に減少に転じているカーブは、衝撃的である。
他の分野においても、停滞~減少している分野が多く、また、多少増加傾向にある分野もあるが、海外諸国の増加率に比較すると微々たるものであり、海外と日本との差は広がる一方である。
過去に日本が優位性を保っていた産業競争力が、韓国、台湾、中国などの新興国に追い抜かれていることについて、日本の技術の流出や、経営戦略の失敗などがその理由として挙げられているが、学術分野別の論文数の推移をみると、新興国は一朝一夕に日本を凌駕したのではなく、大学の研究力を高めるという正攻法によって、日本を抜き去ったことがわかる。例えば、韓国や台湾という、日本よりもはるかに人口の少ない国における情報・エンジニアリング分野の学術論文数は、絶対数で日本と同等もしくは多いわけであるから、日本のこの分野の関連産業が両国に負けることは当然であると思われる。
「選択と集中」(重点化)よりも、日本の研究力、あるいはイノベーション力の”底力”を高める抜本的な対策を今すぐに取らない限り、日本は二度と再起できない国家になってしまう可能性がある。
分数カウント法だと、日本の順位は世界第三位。
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/pdf/8/1_ms_saka_20110203.pdf
豊田先生の国別論文数のカウント法は、国際共著論文の場合、どのような手法でカウントしているのでしょうか?
複数国の研究者の共著論文で、冒頭に名を連ねている研究者の国籍で判断されておられるのでしょうか?その場合、アメリカとしてのカウントが増えるものと予想されます。
共著論文の連名の冒頭者が、共著者の中で主導者であるとは限りません。
このような数値の違いから見るに、作為的なものを感じてしまうのですが。
この国別論文数でみると、日本人研究者が海外の大学で論文書いて博士号を取ったら、日本の論文とはカウントされないわけです。
日本人研究者が日本の大学で論文量産すべきだ、海外大学で博士号取るのは望ましくない、という考え方なんですかね?
それは日本人研究者の質・量的衰退とはイコールでないと思いますが。
ともかく、先生の報告書は算定根拠につき、疑ってかかる必要があると思いました。
また、「”底力”を高める抜本的な対策を今すぐに取らない限り…」という具体性のないスローガンを掲げられても鼻白んでしまう。
アメリカの大学は、海外からトップレベルの学生が集まってくる環境を作ることで、自国内の学術研究レベルを常にトップに保っています。
当然、そこからスピンアウトしたり技術移転したりする先も、アメリカ国内であることが多いでしょう。
ですから、国別での比較には十分意味があると思いますよ。
ご存知のようにアメリカやヨーロッパの大学へは中国人・韓国人が大量に留学しています。
仮に所属機関の国別比較ではなく論文著者の国籍比較を行ったら、日本と中国・韓国の差はさらに圧倒的になるのでは?
海外へ留学していた人たちが自分の国に帰ってラボを作って・・・という流れを考えたら、そのデータは今後10年20年先の、さらに恐ろしい将来を暗示することになるかもしれません。
多少減少していたとしても、グラフから読み取れるのは横ばい、大きく言って緩やかな現象ということかと。相対的な地位は下がっていますが。
科学技術政策研究所の資料21ページの研究者国籍別シェアを見ると、中国に比べ韓国はそれほどシェアが増大しておりません。質を問わなければ、研究者数の多い中国のシェアが増大するわけで。
海外留学者が帰国する一方で、そのまま外国に居続ける、いわゆる頭脳流出の現象もあるわけですから、将来的なことは一概には予測できません。
ただ、私が指摘したいのは、豊田氏が論文数の国際比較について、科学技術研究所の行った先行調査研究の成果を検討していないのではないか、ということです。
先行研究の問題点を指摘し、自分の手法がより正確だというのであれば、説得力があります。しかし、そのような検討を行ってはいないようです。
学術論文では、このようなことではお話にならないんですけどね。
豊田氏も国際共著論文における分数アカウント等の手法を用いているようですが、阪氏のデータと食い違いがあります。阪氏のデータだと、2008年時点において、研究者国政器別分数アカウント法によるシェア比較では、中国が米国を抜き第一位となっています。(資料21ページ)
しかし、豊田氏のデータからすると、同時点において米国が第一位。
算定方法が異なるのであれば、その具体的理由を説明していただきたいものです。
税金は研究以外に回してほしいです。
平均年齢はおそらくどの国よりも高いのでしょうが
年功序列システムのおかげで人件費が高騰しています。
若い研究者が主体の他国に勝てるわけがないと思います。
特許で優秀な成果が多いと思われるのでそれで十分です。もう税金に頼るのはみっともないですよ。
内容の趣旨は、論文数の推移をみていくと日本は減少していて他の後進国にも抜かれているという状況。また、国立大学改革後に顕著に現れているということ。
論文数の多寡がノーベル賞などの改革的な発明の取得に繋がるということが、前例からみて明らかなのであれば、憂慮すべき事態かと思います。しかし、今回の理研のこともあり、論文は、品質管理がとても重要であることが再認識されています。
本当に価値の高い論文を出すことが大事だと思います。
逆読みすれば、ノーベル賞の取得の推移はどうなのでしょうか。
確かに、米国は取得数が多いので論文の数が多いことが大事だという法則は当てはまります。中国、韓国はいかがでしょう。数の上では日本を上まわっていますが、韓国などはノーベル賞の取得はゼロです。
コピペのようなレベルの低い論文を沢山書いて、数の多きを誇ってもナンセンスでしょう。
論文数などを気にせず、IPS細胞のような有意義な発明につながる研究を進めていくべきだと思います。