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プログラムの著作物性・ExcelVBA(否定) 東京地判令6.12.23(令6ワ70189) - IT・システム判例メモ

IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

プログラムの著作物性・ExcelVBA(否定) 東京地判令6.12.23(令6ワ70189)

ExcelVBAで作成したアプリケーション(プログラム)の著作物性が否定された事例

事案の概要

X(個人)は、Y社の依頼を受けて、畳店の業務に使用するソフトウェア(本件プログラム)を作成した。

本件プログラムに不具合があったことや、代金の額について争っていたため、Xは、Y社に対し、本件プログラムを無許可で使用することは著作権侵害に当たるとして、削除を求めていた。これに対し、Y社は、本件プログラムには不具合があるとして、契約を解除する意思表示をし、本件プログラムを削除した。

Xは、Y社に対し、著作権侵害に基づく損害賠償請求として45万円を請求した。

ここで取り上げる争点

本件プログラムの著作物性

裁判所の判断

裁判所は、著作物性を否定した(引用部分には適宜改行等を行っている。)。

Xは、本件プログラムのソースコードのうち、

①製品名のドロップダウンリストを表示する機能に関する部分(以下「①部分」という。)、
②顧客の名前を検索、確定する機能に関する部分(以下「②部分」という。)、

以上の2点を赤色でマーキングし、当該2点を創作的表現部分として主張するものと解されるところ、Xは、裁判所からの繰り返しの釈明にかかわらず(略)、これらが創作的表現に該当する理由を具体的に主張するものではない。

この点を措き、Xの主張について精査しても、①部分については、Xの主張は、ActiveXコントロールのコンボボックスを使用し、フォントやフォントサイズをカスタマイズ可能にするという、単なるアイデアをいうものにすぎない。念のため、①部分の内容についてみても、(略)エクセルにおいて標準仕様として用意されているActiveXコントロール及びActiveXコントロールのコンボボックスを用いて項目をドロップダウンリストとして選択可能とさせるものであって、これらを使用してフォント名及びフォントサイズをカスタマイズする手法自体は、極めてありふれたものにすぎない。

更に念のため、これらの機能に対応するソースコードについてみても、使用されている指令及びその組合せにおいて、Xの個性が表れているものといえないことは明らかである。

また、②部分についても、Xの主張は、ユーザフォーム画面のコンボボックスで、カタカナ行のドロップダウンリストから目的のカタカナ行をマウスで選択して、表示されたリストボックスから目的の名前と電話番号をマウスでクリックすることで顧客の名前を選択可能にするという、単なるアイデアをいうものにすぎない。念のため、②部分の内容についてみても、(略)エクセルにおいて標準仕様として用意されているユーザフォームのコンボボックスとリストボックスを用いるものであり、コンボボックスとリストボックスを用いてマウスで値を選択させ、リストボックスの項目が選択されたときに実行されるChangeイベントを用いることにより、マウスで選択された値を取得することを可能とするものであって、これらの手法自体は、いずれも極めてありふれたものにすぎない。

更に念のため、これらの機能に対応するソースコードについてみても、使用されている指令及びその組合せにおいて、Xの個性が表れているものといえないことは明らかである。

これらの事情の下においては、Xの主張は、アイデアをいうものに帰し、本件プログラムに表現上の創作性を認めることはできない。

その他の争点についても、裁判所はXの主張は認めず、請求は棄却された。

若干のコメント

プログラムの著作物性が争点となる事案の中には、本件のように、権利を主張する者(本件でのX)が、表現の具体的な創作性を主張せず、単に機能やアイデアが優れていることを主張するにとどまるケースがあります。例えば、大阪地判令元.5.21では、印刷すると1万頁以上もあるというコードについても、具体的な表現についての主張がないとして著作物性を否定しており、知財高判令4.7.13では、システムの構成について著作物性を主張するのみであって創作性が否定されており、東京地判平4.8.30では、機能の主張をいうに過ぎないとされたほか、コードを具体的に特定した主張についても、ありふれた手法であるなどとして否定されています*1

裁判所は、念のためにコードを確認したと述べており、おそらくX本人の主張が不明瞭だったために、積極的にコードを確認したのだと思われますが*2、本件では、ExcelVBAを用いた簡易なアプリケーションであり、ActiveXコントロールを使用したなどといった記述からは、コード自体はほぼ自動で生成されるもので、ほとんど自身でコードを書かずに作成したアプリケーションではないかと思われますし、一部コードを追加した部分があったとしても、決められたルールに則って定型的なコードを追加しただけではないかと推察されます。

ホームページ作成ソフトを使って自動生成されたhtmlファイルについても、著作物性を否定した事例がありますが(東京地判平24.12.27)、同様にマイクロソフトVisual Studioが自動生成するコードを利用しているものについて著作物性を否定した事例もありますから(知財高判平26.3.12)、やはり本件で丁寧にコードの特定の部分を取り上げて主張したとしても、著作物性が認められにくかったと思われます。

現在では、ノーコード、ローコード開発が盛んであり、さらには生成AIを用いたコード生成・チェックも広く行われいるため、人間が一からコードを書く場面が限られつつあります。自動生成されたコードには、著作物性が認められるケースはほとんどないだろうと思われます(生成AIによって生成された出力の著作物性については、多くの議論がありますがここでは詳細には触れません。)。

*1:他に、東京地判平24.11.30 なども同様

*2:知財部の場合、代理人が不慣れであったり、あるいは本人訴訟である場合、裁判所が比較的積極的に釈明権を行使して争点整理をしたり、証拠の提出を促す印象があります。









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