モスクワの街角で男が叫ぶ。「大統領の大ばか野郎!」。すぐさま警官に捕まった。「プーチン大統領への侮辱は許されない」。男は笑う。「おいおい、俺はゼレンスキーのことを言ったんだぜ」▲1年前に出た早坂隆著「世界のロシア人ジョーク集」から引いた。どちらにも取れる言葉の妙だろう。ロシアと挟んだ国境、背後でうごめく中国や北朝鮮の不気味な影…。侵攻にさいなまれ続けるウクライナの情勢は、日本とも重なって見えてくる▲ゼレンスキー大統領が訪米する。ウクライナ国内の希少鉱物資源を共同開発する文書を米国と取り交わすという。今後の安全を念じてのはずだが、当のトランプ大統領は軍事支援の代金回収くらいの感覚らしい▲物言いも高飛車で「安全保障なら欧州を頼れ」といった調子。ウクライナを突き放すつもりなのか。岸田文雄氏は首相時代、「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と度々、口にしていた。いつか日本が突き放されたら、頼みの綱は何だろう▲日本国憲法でうたった〈平和を愛する諸国民の公正と信義〉に勝るものはあるまい。ロシアを挟んで、「隣の隣の国」同士であるウクライナの命運は人ごとではない。