法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

藤田晋社長の激怒は経営的判断としては極めてまとも

東証一部上場企業のサイバーエージェント社長の藤田氏が、日経新聞のコラムで新規事業立ち上げ途中で転職した社員を非難した件が話題となっています。

労働者には原則として退職の自由が認められているので、転職した社員を非難した藤田社長にはネットで異論が多発しているようです。

藤田社長が激怒した理由は以下の通り

その若い社員に新事業の立ち上げという責任あるポジションを任せていたにもかかわらず、突然アルバイトを辞めるかのように放り出されてしまったからです。

(中略)

しかも、「セカンドチャンス」の途上でした。その若い社員は以前、会社に億単位の損失を与える失敗をしたことがありますが、我々は再度のチャンスを与えていたのです。 

(中略)

もう1つ、怒った理由があります。その人の転職が「競合からの引き抜き」だったからです。私は十数年前から、競合の引き抜きに対して激怒することにしています。

引用元:私が退職希望者に「激怒」した理由 (藤田晋氏の経営者ブログ) :日本経済新聞

企業としては、いくら労働者に辞める自由があるとはいえ、企業にとって不利な時期に辞められてしまうとかなりの痛手を被ります。特に替えがききにくいポジションであればあるほどダメージは大きいでしょう。

また、企業にとって人材は最大の経営資源です。有能な人材を競合他社にとられるのはまさに死活問題でしょう。おそらく、今回転職した人も優秀な人材だったのだと思います。辞めてもどうでもいい人材であれば、藤田社長も怒ることはなかったはずです。

しかし、藤田社長はなぜこんなことを公開の記事に載せたのでしょうか。ネット業界に精通している藤田社長であれば、今回の記事のような社長という強者が労働者という弱者を叩く構図の記事が炎上することは百も承知のはずです。批判が殺到することをわかっていて書いているのは間違いないでしょう。

これはIT業界の人材不足に藤田社長が強い危機感をもっている現れだとみることができるのではないでしょうか。

独立行政法人情報処理推進機構の調査によると、人材が不足していると感じているIT企業は以下のグラフの通り年々増加しています。

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グラフ引用元:「IT人材白書2014概要」情報処理推進機構

変化のめまぐるしいIT業界では一から社員を教育している余裕は少ないので、常に企業は即戦力を欲しています。そのため、他社からの引き抜きも激しくなってきていることでしょう。IT業界の熾烈な人材獲得競争は、アフィブロガーのみなさんがIT系の転職サイトのアフィリエイトを貼りまくっていることからも伺えます。

そんな中で、今回の藤田社長の激怒(のフリ)記事は人材を企業にとどめておく上で重要な効果を発しています。

まず、転職した元社員の転職先の会社では、藤田社長が言及した社員の特定は極めて容易なはずです。当然サイバーエージェントで新規事業に携わったという実績をもって転職したと紹介されているはずですからね。それが、過去の失敗や仁義に反する辞め方をしたと暴露されてしまっては、転職先での仕事もやりにくくなってしまいます。そのことは転職先の企業にとってもマイナスですから、藤田社長はみごとに競業先にダメージを与えたことになります。

次に、今回のように仁義に反するような辞め方をした場合、自分も攻撃されかねないとサイバーエージェントの社員たちは釘をさされた格好になります。今後、同社に極めて不利な形で辞めるような社員は出にくくなる効果が期待されます。少なくとも、藤田社長は社員から怖れられることにはなったと思います。

かつて僕の尊敬する偉い人がこう言っていました。「嫌われるのはかまわない。その代わり怖がられる人間になりなさい。」と。

この件で、藤田社長は一部のネット民から嫌われることになったと思いますが、彼の周囲の人間からは「藤田は怒らせたら怖い、彼に対して仁義に反することをしてはならない。」という強い印象を与えることができました。それは人材流出の防止にも一定の効果をもつはずです。

今回批判が多数でている藤田社長の激怒ポーズは経営的にはまっとうで合理的な判断だったと思います。これだとサイバーエージェントに入社する人が減っちゃうんじゃないのと思う人もいると思います。しかし、その点は問題ありません。藤田社長は、今回の記事でプロジェクト途中で辞めるような社員はうちに来るなというメッセージを暗に送っているのですから。

藤田社長の創業期の様子を知りたい人は「渋谷で働く社長の告白」がお勧めです。「起業家」など比較的新しく出た本もありますが、僕は彼の本の中ではこの本が一番面白いと思います。

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