(写真:polkadot_photo/Shutterstock)

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

※本稿は『おれは老人?』(勢古浩爾著、清流出版)より一部抜粋・加筆したものです。

 老人に関してひとつ、世にほとんど知られていない衝撃の事実を披露しようと思う。

 それはなにか。

 老人はじつは、自分を老人だとはちっとも思っていない、という事実である。

 わたしは南伸坊のファンで、かれのたいがいの本は読んでいる。有名人に似せた無理やりな顔面扮装(上半身扮装)の本『本人遺産』など、最高におもしろい。

 その南伸坊が、養老孟司との対談本『老人の壁』(毎日新聞、2016)のなかで、さりげなくこんなことをいっていた。

「いつまでも若いつもりでいないで、老人の自覚をもたないと」とは思うものの、「どうも実感がないんです」と。

 このとき、南はたぶん67歳。

67歳のころの南伸坊氏。赤瀬川原平さんをしのぶ会で(2015年2月6日、写真:共同通信社)

 そんな歳になっても、まだ「若いつもり」で、どうも自分にじいさんになった「自覚」がない、といっているのだ。

南伸坊の上をいく養老孟司の答え

 この文章を読んだとき、わたしは「いや、わかるわかる、じつはおれもそうなんだ」と、思わなかったらしい。そのときは、「フムフム」と読み飛ばしたようなのだ。

 南伸坊は、老人の自覚がないのは自分だけなのか、と心配になったようで、養老孟司に、「先生は、ご自分を老人だ、と思われますか?」と訊いている。

 ところが養老はあっさりと、南の上をいっていた。

 年下の人に案内されたり、動作が思いどおりにいかなかったり、タクシーを降りるときにもたもたするようなときには、おれも年取ったなとは思う。

 しかし養老はそのあとで、「じきに80ですが、一人でいたら絶対思いませんね」と断言していたのである。

82歳のころの養老孟司氏(2020年11月7日、写真:共同通信社)

 そこでさらに、南は養老に「(わたしが)70歳になったらさすがに思いますかね」としつこく訊いているが、ここでも養老の答えがいい。