踏み出すのは怖い。その一歩が怖い。ヒロインは愛を信じて去られる悲しみを幼心に体感し、膝を抱えて、一人で耐えてきた。
まだ歳若い、美貌の会社上層部の人間が、周囲から、権力ある上位経営者との特別な関係を疑われない方がおかしい。当人たちがな
にかあったかなんて、人は余り真相に無関係のままに思い込むものだろう。
思い込みは男女間だと決定的な亀裂となりえるが、この作品のヒロインは両親のことを一方だけから話を聞くだけでは正しい認識が出来ないと気づいた。きちんと確認し合わないで、そこから一方的に逃げていたと気づいた。話をしてみようとする気持ちに切り替えることができた。
思わせぶりな描写が、まるで、安く作られたドラマの視聴率稼ぎのお色気シーンのように少々引っかけのストーリーに見えてしまうが、どんな誤解に繋がりそうなエピソードもそこには別の事情があるかもしれないということを表現する証拠の1ピース1ピースとして生かされている。
それにしてもHQは仕事中にプライベートのハプニングが本当に多い。会社の上層部ほどむしろその傾向が強いように見えるが、このストーリーも、自宅が主たる舞台となっており、働く女性として、読者の私には、「この連中は一体何なの?」と、真面目に働く世の全会社員がカチンと頭に来そうな設定に見える。
この話はまさに、企業買収の成否が、取引関係の成立不成立が、まるでヒロインの実力以外の魅力に関わるかのようで、一冊のラブストーリーとしての気持ちよさがその分貶められたような気にさせられてしまう。
ただ、マットは、男性として魅力的だ。キスの場面は想いのほとばしりを絵柄で感じることができる。
そして、実質週末二日間で恋に落ち結婚の決意まで達する勢い、年齢と冷静さからくる客観性を滲ませ若気の至りによるただの熱病というのでもないと示すように安易に踏み込まず。互いの信頼感の醸成があり、ロマンチックな雰囲気はうまい。それと、夜の描き方が巧い。黒の使い方が格好いい。
私がHQに求めるものは十二分に魅力を放っている。
追記:この作品で藍先生を知り、絵に魅力を感じたので、紙でも購入した。キスシーンの人物の線は粗いと思う。
一度は☆4つを付けていたが、登場人物のキャラがよく出ていて、ひかれ合う二人のムードが作品の空気をしっとりと作り出して、何度読んでも味わいがあるため星数を上げることにした。
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