Shinemuscat New Saibai

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農林水産省委託事業 食料生産地域再生のための先端技術展開事業

「被災地の早期復興に資する果樹生産・利用技術の実証研究」

新技術を導入した
「シャインマスカット」栽培マニュアル

宮城県における雨除け栽培(H型整枝・短梢せん定)目標

収 量:2300kg/10a(慣行1800kg /10a )
果房重:600~700g(1粒15g以上,40~45粒)
着房数:主枝1m当たり9房,およそ3300房/10a
(慣行では、主枝1m当たり7房,およそ2600房/10a)
粗収入:345万円/10a(販売単価1500円/kg)
⽬ 次

シャインマスカットの特徴 ------------ 1
新技術の紹介 ------------------ 2
1.省力栽培技術
2.減農薬防除体系
3.収穫期延長技術
4.長期貯蔵技術
定植前の畑の準備と苗木の定植方法 -------- 6
樹形の作り方とせん定 -------------- 7
栽培管理 -------------------- 9
1.芽かき
2.新梢誘引
3.フラスター液剤散布
4.開花期の摘心
5.花穂整形
6.開花前のストレプトマイシン剤散布
7.ジベレリン1回目処理
8.軸長の調整と予備摘粒
9.ジベレリン2回目処理
10.摘房と仕上げ摘粒
11.副梢の管理
12.袋掛け
13.施肥
注意したい病害 ---------------- 13
1.べと病
2.黒とう病
3.灰色かび病
4.うどんこ病
5.晩腐病
注意したい害虫 ---------------- 15
1.チャノキイロアザミウマ
2.クワコナカイガラムシ
3.ブドウトラカミキリ・ブドウスカシバ
市場の流通状況と出荷可能期間 --------- 17
収量の推移と経営収支 ------------- 18
「シャインマスカット」の特徴
来歴
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構で育成され,
平成18年に品種登録されました。

特徴

 マスカット香があり皮ごと食べ
られます。
 果皮が薄いのに裂果しにくいで
す。
 緑色ブドウなので着色管理が不
要です。
 脱粒しにくく貯蔵性・流通性が
優れます。
 技術習得が楽な短梢栽培が可能
です。

宮城県における主要なブドウ品種の生育

品種名 発芽期 展葉期 開花始め 満開期 収穫始め

シャインマスカット 4月22日 4月29日 6月6日 6月9日 10月5日

ピオーネ 4月22日 4月29日 6月2日 6月5日 9月28日

クインニーナ 4月24日 4月29日 6月7日 6月9日 9月27日

巨峰 4月23日 4月30日 6月3日 6月7日 9月15日

※宮城県農業・園芸総合研究所内短梢せん定樹平成27年~29年までの平均値

-1-
新技術の紹介 1.省⼒栽培技術
技術の概要
花穂整形器の利用
⇒花穂整形作業の省力化

1新梢2房利用
⇒ジベレリン処理と摘
房作業の省力化

副穂・支梗の利用
⇒形の良い花穂を残
すことで摘粒作業を
省力化

果粒軟化期以降の新梢管理の省略
⇒新梢管理の省力化

期待される効果
年間の作業時間を約35%短縮することができます。
群馬県発行 「シャインマスカット」(短梢せん定)省力栽培マニュアルより
-2-
新技術の紹介 2.減農薬防除体系
技術の概要
農薬散布回数を慣行防除体系と比べて2割削減した減農
薬防除体系を組み立てました。

殺菌剤と殺虫剤削減のポイント
 梅雨前までの化学合成殺菌剤をボルドー液に代替
 光反射シートマルチを利用し開花期頃の殺虫剤散布を削減
 袋かけを可能な限り早期化し病害の発生リスクを低減
 袋かけ後のボルドー液散布回数を月1回とし殺菌剤散布回数
を削減

実証圃場(宮城県山元町)における防除時期の目安と対象病害虫

防除時期 対象病害 対象害虫

休眠期 黒とう病

5月中旬 べと病・黒とう病・晩腐病
クワコナカイガラムシ・
6月上旬
フタテンヒメヨコバイ
開花直前
べと病・灰色かび病・黒とう病
(6月中旬)
6月下旬 灰色かび病・晩腐病・黒とう病
べと病・黒とう病・灰色かび病・うどんこ
7月上旬

チャノキイロアザミウマ・
7月中旬 べと病・晩腐病・さび病
フタテンヒメヨコバイ
袋掛け
黒とう病・晩腐病・灰色かび病・うどんこ
8月上旬

8月中下旬 べと病・晩腐病
※太字は重点防除病害虫
※宮城県は「やませ」の影響でブドウの生育期前半は低温、過湿、日照不足にさらされ、
各種病害の多発が懸念されます。このため、ビニルシートによる雨よけ栽培を基本とし、
灰色かび病、うどんこ病、べと病の防除に重点を置きます。
※シャインマスカットはべと病や晩腐病に比較的強いことから、殺菌剤は約2週間間隔で
散布します。

-3-
新技術の紹介 3.収穫期延⻑技術
技術の概要
緑色や青色の有色果実袋を利用して収穫期を延長します。

袋の遮光率

低(明) 高(暗)
熟期への影響

最も早熟 最も晩熟

ポイント
 緑色袋は果粒軟化期以降に被袋作業を行います。被袋が遅れる
と成熟遅延効果が小さくなります。
 青色袋は果粒軟化盛期以降に被袋作業を行います。被袋時期が
早いと糖度上昇が不十分になります。

期待される効果

果皮の黄化やかすり症を軽減しつつ、3週間~4週間の収穫
期延長が可能となります。

平成26年発行 ブドウ「シャインマスカット」収穫期延長と長期貯蔵技術より

-4-
新技術の紹介 4.⻑期貯蔵技術

技術の概要
収穫した果房の穂軸から水分補給をすることで長期貯蔵を行います。

新聞紙 収穫用コンテナ

緩衝資材

無補給
無補給 補給
補給
ポイント
 収穫後、水道水を満たしたプラスチック容器(商品名:フレッ
シュホルダー)を穂軸先端2.5cmに装着します。
 収穫用コンテナの底面に緩衝材を敷き果実袋に入れた果房を
並べます。
 乾燥防止のため新聞紙を被せて貯蔵します。
 貯蔵は0.5~2.0℃に設定した普通冷蔵庫で行います。
 湿度は90~95%を目安に管理します。
 貯蔵期間中の水の補充は不要です。

期待される効果
穂軸の褐変・萎凋を防止し、2ヶ月~4ヶ月間鮮度保持
することが可能です。

平成26年発行 ブドウ「シャインマスカット」収穫期延長と長期貯蔵技術より

-5-
定植前の畑の準備と苗⽊の定植⽅法
1. 定植準備
1)排水対策
ブドウは、排水性が良く石灰飽和度の高い土壌を好みます。ほ場が排水
不良の場合には、暗きょや明きょの施工など排水対策を実施します。ま
た、必要に応じてほ場全体に客土や畝立てをします。
2)定植位置の土壌改良
定植1ヶ月前までに、定植位置に縦横1m、深さ30cm程度の植え穴
を掘り、掘り上げた土に土壌改良資材を混ぜて埋め戻します。
※土壌改良資材の施用量は、土壌分析を行いpH7を目標に調整します。
3)植え付け間隔
H型整枝・短梢せん定の場合、樹間5m~6m、列間は砂質土壌の場合
は10m、その他の土壌の場合は16m程度となるようにします。
10a当たりに必要な苗木の本数は、11本~20本程度です。
2. 苗木の定植
1)苗木の準備と定植時期
苗木は、専門業者から定植前年の秋頃に購入し、半日くらい水に浸け
た後、風当たりの少ない場所に仮植しておきます。仮植の際、苗木は1
本ずつ植え溝に斜めに並べて、根と枝半分くらいが埋まるようにしま
す。厳寒期を過ぎた3月~4月上旬に定植します。
2)定植手順
① 植え床を作り、支柱を立てて植え穴にかん水します。
② 苗木は、傷ついた根を切り落してから支柱を中心に根を四方に広げ、
根の先端が斜下方を向くように山型に置きます。
③ 台木部分が15cm程度地上に出るように土を埋め戻します。盛土部分
は、踏み固めて土手を作り、水がたまり易いようにしておきます。
④ はっきりとした芽の1つ上の芽の位置で切り返します。苗木を支柱に
誘引し、たっぷりとかん水をします。
⑤ 稲わらなどでマルチを行い乾燥を防ぎます。 支柱

3)定植後の管理
接木部
① 5日~7日に1回程度かん水し
ます。 台木部を15cm
以上地上に出す
② 発芽前にデランフロアブル
200倍を散布します。
③ 発芽したら生育の良い2芽を残
して他はかき取ります。 30cm
④ 除草を行い株元をきれいに保ち
ます。
1m

-6-
樹形の作り⽅とせん定
H型整枝・短梢せん定の特徴
 技術を習得しやすく、作業性に優れた整枝・せん定法です。
 樹形完成後はせん定量による樹勢調節ができないので、長梢せん定樹よ
りも樹冠面積を小さくして、樹勢を強めに維持する必要があります。

2.5~3m
5~6m

10~16m

1年目
定植後、1本に整理した新梢が棚面から10cm程度超えた時点で、棚面下
25cmくらいの位置で摘心します。主枝誘引線は作業性向上と新梢の欠損
を防ぐため、棚面より20cm程度低い位置に設けます。その後、発生した
副梢を二手に分け、主枝誘引線に向けて伸ばします。主枝誘引線を20cm
程度越えたら、主枝誘引線手前5cmくらいの位置で摘心し、再度伸長した
枝を利用して主枝を作っていきます。
冬期せん定時に主枝延長枝は太さ12mm程度の位置まで切り戻します。

摘心
棚面
10cm

20cm 25cm 主枝誘引線

主枝誘引線 摘心

主枝誘引線

-7-
樹形の作り⽅とせん定
2年目
主枝先端から発生した新梢は、主枝延長
枝として真っ直ぐに伸ばし、3m程度伸び
たら摘心します。また、芽が横向きになる
ように、捻枝や副梢の誘引で矯正します。 第2芽
その他の新梢は棚面に誘引し、向かい合う
主枝の中間地点まで伸びた段階で摘心しま
す。その後発生した副梢は、葉1枚だけ残し
て摘心します。着生した花穂は、すべて摘
除します。冬期せん定時に主枝延長枝は枝 第1芽
の太さが12mm以上あれば、15芽(およ
そ2.5m)まで切り戻します。その他の結果 図 犠牲芽剪定の様子
母枝は、2芽残して犠牲芽せん定(残したい
芽の1つ先の芽の位置でせん定)をします。

3年目
発芽前に、主枝延長枝の基部から3分の2の芽に芽傷処理を行います。新
梢の扱いは2年目と同様です。短梢せん定した結果母枝から発生した枝
は、2本とも誘引し新梢10本に3房程度着果させます。
冬期せん定については2年目と同様です。

図 芽傷処理
樹液が上がり始めた頃に芽傷鋏などを使い芽の先5mmの位置に傷をつけます。
4年目
主枝延長枝の管理は、3年目と同様で
す。短梢せん定した結果母枝から発生し
た枝は、生育や花穂の着生を確認して芽
座当たり1~2本程度に整理し、主枝1m
当たり新梢を10本(片側5本)誘引し7
房着果させます。
なお、5年目以降(すべての主枝上に
短梢せん定した結果母枝ができてから) 図 芽座(がざ:主枝上の芽の出る場所)
は、棚下に光反射シートを設置し、着房 短梢せん定では芽座を形成することで品質
数は主枝1m当たり9房とします。 のばらつきが抑えられます。

-8-
栽培管理
1.芽かき
展葉5枚頃までに、新梢の生育を揃えるため、強く伸びた芽や弱い芽をか
きます。誘引時の欠損も考慮し、芽座当たり2本に整理します。

2.新梢誘引
展葉9枚くらいになったものから誘引します。短梢剪定の場合、新梢の欠
損は収量に影響するため注意して行います。無理な誘引により折れてしまう
恐れがある場合には、捻枝をします。花穂着生や形状に問題がなければ、で
きるだけ基部に近い新梢を残して、主枝1m当たり10本の新梢を配置しま
す。
3.フラスター液剤散布
新梢、副梢の伸長抑制と果房の横張り軽減のため、展葉10枚時にメピ
コートクロリド液剤(商品名:フラスター液剤)1000倍液を散布します。
ただし、樹勢の弱い樹への散布は行いません。
4.開花期の摘心
果粒肥大促進と着粒安定のため、開花直前から開花始めにかけて新梢先
端の未展開葉(500円玉より小さい葉)を摘みます。生育の悪い新梢は摘
心しません。摘心後の葉数が10枚程度となるような新梢のみ摘心を行いま
す。

5.花穂整形
開花始めに花穂整形器を使い、花穂先端4~4.5cmを残して、その他の
支梗をせん除します。作業時期が早いと花穂が間延びしたり湾曲します。逆
に作業が遅れると花ぶるいしやすくなります。また、先端の形が悪いと摘粒
作業の時間が大幅に増加するので、副穂・支梗利用と1新梢2房利用を行
い、形状の良い花穂を最終着房数の1.5倍くらい(主枝1m当たり14房程
度)作ります。その他の花穂は全てせん除します。

上部の支梗2つはジベレリン
処理の目印として残す。

花穂先端を4cm残す。

図 花穂整形の様子
-9-
栽培管理
◎花穂整形器の利用により作業時間がおよそ25%短縮できます。
表 1房当たりの果房管理時間 単位(秒)

花穂整形 ジベレリ
試験区 摘粒 袋掛け 合計
(削減率) ン処理

28.2
新技術導入区 15.0 138.6 22.9 204.7
(24.8)
慣行区 37.5 15.9 139.6 24.8 217.8
図 サボテン社花穂整形器
有意差 * ns ns ns

6.開花前のストレプトマイシン剤散布
「シャインマスカット」は無核化しにくいので、無核化促進を目的にスト
レプトマイシン液剤(商品名:アグレプト液剤)1000倍液を、満開予定日
の14日前から開花始めまでに散布します。

7.ジベレリン1回目処理(無核化処理)
花穂先端まで咲ききった時(完全満開時)に、ジベレリン25ppmを処理
します。なお、着粒安定と果粒肥大促進のため、ホルクロルフェニュロン
液剤(以下、フルメット液剤)5ppmを加用します。樹齢が経過し果粒肥
大が十分な場合には、フルメット液剤の濃度を2~3ppmにします。薬液
をゆっくり浸透させるため、作業は早朝や夕方などに行います。

図 ジベレリン1回目処理適期の花穂 図 ジベレリン処理に必要なもの

-10-
栽培管理
◎幼木期(定植5年目くらいまで)の植物成長調節剤処理
「シャインマスカット」の栽培特性として、幼木期は花穂の充実不良と果
房への日当たりが良好であるため、果粒肥大が悪く果皮が黄化してしまう小
粒黄化果房が発生します。
そこで、展葉6枚時にフルメット液剤2ppm処理と有色果実袋(青色袋も
しくは緑色袋)の利用により、小粒黄化果房の発生を抑えて商品性の高い房
を作ることができます。
表 フルメット液剤処理が花穂長に及ぼす影響

フルメット液剤 展葉6枚時 開花前


処理 (cm) (cm)

有り 7.0 22.7
無し 7.4 13.2
有意差 ns **
※t検定で**は1%水準で有意差あり、nsは有意差なし。

表 フルメット液剤処理が果実品質に及ぼす影響

フルメット液剤 平均1房重 平均着粒数 平均1粒重 糖度 酸度


果皮色
処理 (g) (粒) (g) (°Brix) (g/100ml)
有り 572.7 41.2 13.6 18.9 0.29 2.9
無し 419.6 42.7 9.7 20.6 0.25 4.3
有意差 ** ns ** ** ** **
※t検定で**は1%水準で有意差あり、nsは有意差なし。

8.軸長の調整と予備摘粒
ジベレリン1回目処理5日後くらいに、軸長を7cm (目標房重600g~
700gの場合)にするため支梗を切り下げます。その後、内向き果、小粒果
(緑色の薄い果粒)、変形果などを除去します。

9.ジベレリン2回目処理(果粒肥大)
満開15日後に、ジベレリン25ppmを処理します。薬液の乾きが悪いと
薬害(ジベ焼け)が出るので、作業は晴天日の日中に行い、薬液を処理した
後は余分な薬液を振るい落とします。

-11-
栽培管理
10.摘房と仕上げ摘粒
ジベレリン2回目処理5日後くらいから、果粒肥大の劣るものや形の悪い
房を取り除き、最終着房数(主枝1m当たり9房)程度にしていきます。
残した果房は、軸長が9cm程度となるように支梗を切り下げて、1房当た
りの着粒数が40~45粒となるように摘粒していきます。

11.副梢の管理
開花期の新梢摘心後に発生した先端の副梢は、向かい合う主枝の中間点
まで伸ばして再度摘心します。房基に発生した副梢は3枚、房先は1枚葉を
残して摘心します。作業は果粒軟化期前(およそ満開50日後)まで繰り返
し行います。果粒肥大促進のため、作業はこまめに行うことが重要です。
顆粒軟化期以降は、省力化のため副梢管理は行いません。

12.袋掛け
白色袋を使う場合、病害虫や薬剤散布による汚れなどを防ぐため、仕上
げ摘粒が終りしだいなるべく早く行います。ただし、作業の遅れにより袋
掛けが梅雨明け後になる場合には、日焼けを軽減するため、果粒軟化期以
降に行います。
収穫期延長のため有色袋を使用する場合には、果実糖度がある程度上昇
した果粒軟化盛期に被袋します。

13.施肥
休眠期直前の11月に元肥をします。元肥は窒素、リン酸、カリの3要素
を含み、窒素がゆっくり効くような肥料を窒素成分で5~8kg施用しま
す。保肥力の小さい土壌の場合は、発芽15日前に窒素成分で1kg、ジベレ
リン処理2回目処理後と収穫後に窒素成分で2~3kgの即効性肥料を施用し
ます。

-12-
注意したい病害
1.べと病
ブドウで最も重要な病害で、葉、果実、新梢などで発生します。雨水や
水滴により本病が伝搬されます。「シャインマスカット」は本病に比較的
強いことから、本病に対する殺菌剤散布回数の削減が可能です。
発生の大まかな時期は、6月下旬~収穫期までと考えられます。防除時
期は5月中旬~収穫期、降雨により防除間隔が開くと発生が多くなります。
また、梅雨明け以降乾燥した年は発生が少ないですが、降雨が続くと発生
が多くなります。薬剤防除以外に、雨除け栽培で被害を低減することが可
能です。

幼果の被害 葉の裏側に生じた胞子の集まり

2.黒とう病
ブドウの葉、枝、果実など、若い組織で発生する病害です。雨水や水滴
により本病が伝搬されます。「シャインマスカット」は、本病に比較的弱
いことから、露地で栽培する場合には本病に対する重点的な防除が必要で
す。
発生時期は、展葉期~新梢の生育が停止するまでの期間で、若い組織を
中心に被害がみられます。伝染源となる胞子は発芽前から飛散が始まるの
で、3~4月の休眠期からジチアノン水和剤散布を始める必要があります。
この病気も、雨除け栽培で被害を低減することが可能です。また、冬季に
被害枝や棚に残った巻きひげを取り除くことも有効な対策です。

新葉の被害 果房の被害

枝の被害

-13-
注意したい病害
3.灰色かび病
ブドウの施設栽培で問題となることがある病害で、果穂や果房に腐敗を
引き起こします。低温・多湿条件を好むことから、収穫後の貯蔵果実にも
被害を及ぼします。東北地方太平洋側で発生する「やませ」は野外が低
温・多湿な環境となることから、園地でも本病の発生が促される可能性が
あります。
薬剤防除は、開花直前~落花直後に、シプロジニル・フルジオキソニル
水和剤、イプロジオン水和剤、ポリオキシン・イミノクタジン水和剤など
を散布します。

果穂の被害 収穫期の被害
4.うどんこ病
施設栽培のように、比較的乾燥した条件で発
生しやすい病害です。果房の表面に粉状のかび
がまん延し、観を損ねるとともに生育を阻害し
ます。薬剤防除は、落花直後~袋かけ直前まで
トリフルミゾール水和剤、ベノミル水和剤を散
布します。

5.晩腐病
うどんこ病の被害
主に成熟期の果房を腐敗させる病害です。
伝染源となる胞子は平均気温が15℃以上とな
り降雨があると形成され、飛散を開始します。
胞子は幼果に付着してもすぐには発病せず、
果房の酸が低下し糖度が上昇する成熟期に
なって初めて発病し腐敗を引き起こします。
このため、発芽直前~収穫期近くまでの防除
が必要です。胞子は雨によって飛散すること
から、雨除け栽培によって被害を低減するこ
とが可能です。露地では、袋の口を堅く閉じ
て、雨水が果房にかからないように注意が必
晩腐病の被害
要です。

-14-
注意したい害⾍
1.チャノキイロアザミウマ

チャノキイロアザミウマ成虫 チャノキイロアザミウマによる果実被害

体長1ミリ程度の害虫で、年5~7回発生します。袋かけ前までに重点的
に防除を実施し、袋かけ後は増殖源となる副梢管理を行い、園内の密度を
抑えます。袋かけ前までの対策としては、
・第1世代成虫飛来前に光反射シートを設置します。
・第2世代成虫飛来時期に防除を実施します。
・第2世代成虫飛来時期の防除後できるだけ速やかに袋かけを行うと、袋
かけ直前の防除を削除できます。
宮城県山元町における第1~3世代成虫飛来時期の目安は以下の通りです。

第1世代成虫 第2世代成虫 第3世代成虫


6月中旬 7月中旬 8月中旬

主な防除剤は、合成ピレスロイド剤(アーデント水和剤、スカウトフロ
アブルなど)、ネオニコチノイド系剤(モスピラン水溶剤など)、コテツ
フロアブルなどです。

2.クワコナカイガラムシ
年2~3回発生する害
虫で、主に施設栽培で多
発します。排泄物が付着
しすす病が発生した果実
は、外観が損なわれ商品
価値が低下します。
越冬卵からふ化した幼
虫を重点的に防除します。 クワコナカイガラムシ雌成虫 果実の被害

宮城県山元町における防除時期の目安は、6月上旬になります。
主な防除剤は、有機リン剤(スプラサイド水和剤、スミチオン水和剤40
など)やネオニコチノイド系剤(モスピラン水溶剤など)です。

-15-
注意したい害⾍
3.ブドウトラカミキリ・ブドウスカシバ
いずれも主に1年生枝を食害する害虫です。
ブドウトラカミキリは、8月~9月頃に成虫が発生し、幼虫はその年に
発生した結果母枝を主に食害します。食害を受け続けた結果母枝は、翌年
春に枯死します。
ブドウトラカミキリの防除時期は、収穫後の秋期から翌年の発芽前(休
眠期)までです。主な防除剤は、有機リン剤(ガットキラー乳剤など)や
ネオニコチノイド系剤です。

ブドウトラカミキリ成虫 加害部は黒変する ブドウトラカミキリ幼虫

ブドウスカシバは、開花期前頃に羽化し幼虫が当年枝を食害します。越
冬幼虫の食入部位は、内部が空洞となることから折れやすくなります。防
除時期は6月上中旬で、主な防除剤は有機リン剤です。

ブドウスカシバ成虫 1年生枝の被害部位は肥大する 越冬中の幼虫

定植後数年間は、樹形を作るためこれら害虫に対する殺虫剤の散布が必
要です。短梢栽培の場合、樹形が完成した後は休眠期のせん定時に被害枝
が除去されますので、せん定枝を翌年の発生源とならないように処分する
ことにより、これら害虫に対する殺虫剤の散布を削減できます。

-16-
市場の流通状況と出荷可能期間
お中元
お盆需要 クリスマス
250 お歳暮 4000
入荷量︵

販売単価︵
年始の需要 3500
200
3000
t︶

円/kg︶
150 2500

2000
100 1500

1000
50
500

0 0

加温栽培 長期貯蔵技術
収穫期延長技術
雨よけ栽培収穫時期

平成26年 入荷量(t) 平成27年 入荷量(t) 平成28年 入荷量(t)


平成26年 販売単価(円) 平成27年 販売単価(円) 平成28年 販売単価(円)

図 市場の入荷量と販売単価の推移
日本園芸農業協同組合連合会 平成29年6月発行「平成28年産京浜・京阪神市場落葉果実・果菜類販売年報」より

市場の入荷量と販売単価について
 「シャインマスカット」は、年々入荷量が増加しています。時期別にみ
ると8月下旬~9月に入荷量が集中しています。
 販売単価は、入荷量が増加しているにもかかわらず上昇傾向です。時期
別に見ると、7月~8月上旬までが高くなっています。8月中旬~10月
中旬までは1,500円/kg前後で推移しています。10月下旬から販売単
価は上昇し、11月以降は入荷量が減り販売単価も2,000円/kg以上と
上昇しています。

宮城県における出荷可能時期について
 収穫期延長技術と長期貯蔵技術の導入により、通常の出荷時期である9
月下旬~10月より販売単価の高い11月~12月に出荷が可能です。
 また、加温栽培をすることで販売単価が3,000円/kg以上の7月に出荷
することが可能です(別冊:宮城県での「シャインマスカット」加温栽
培マニュアル参照)。

-17-
収量の推移と経営収⽀
収量の推移と10a当たりの作業時間
定植5年目から
2800
着房数3割増
慣行栽培

アール当たり収量(㎏)
10 2400
 3年目から収穫が始ま
2000
新技術導栽培
り、6年目で目標収量
に到達します。 1600

1200
 着房数を3割程度増や 800
しても、作業時間は慣 400
行栽培と同等です。
0

表 10a当たりの作業時間 単位:時間
光反射
花穂 ジベレリン 摘粒・ 新梢 施肥・
剪定 袋掛け 防除 シート 合計
整形 処理 摘房 管理 土壌改良
設置
新技術導入
5.5 39.6 21.5 131.6 96.8 21.5 11.7 4.5 19.8 352.5
栽培
慣行栽培 5.3 42.0 18.4 101.8 138.1 18.0 13.9 4.4 - 341.9
有意差 ns * * ** ** * ns ns ns
※t検定で**は1%、*は5%水準で有意差あり、nsは有意差なし。

成園時の経営収支
成園時の経営収支 (単位:円/10a)
新技術導入栽培 慣行栽培
粗収益 3,450,000 2,700,000
費用
肥料費 20,000 15,385
光熱動力費 10,438 10,438
農業薬剤費 21,342 27,000
諸材料・小道具 226,440 164,080
労働費 343,688 333,353
減価償却費 834,983 834,983
販売費用 225,750 175,000
合計 1,682,641 1,560,239
利潤 1,767,359 1,139,761

※宮城県営農類型試算をベースに現地試験のデータを使い試算した。
※収量は新技術導入栽培が2300kg、慣行栽培が1800kgとした。
※販売単価は仙台市場へのH28 年とH29年の10月の販売実績から1500円/kgとした。
※労働費は仙台市の標準農作業料金表より975円/時間として計算した。また、収穫・出荷に係
る労働費は含まれていない。
※減価償却費は雨よけハウス、苗、農薬散布機、運搬車等が含まれている。

-18-
宮城県山元町実証ほ場にて開催された「シャインマスカット」成果伝達会
(2017年7月6日開催)の様子

本マニュアルは、食料生産地域再生のための先端技術展開事業「被災
地の早期復興に資する果樹生産・利用技術の実証研究(平成24年~平成
29年)」(復興庁・農林水産省)において実施した試験結果をもとに作
成したものです。

作成:宮城県農業・園芸総合研究所,農研機構果樹茶業研究部門
発行者:農研機構果樹茶業研究部門
平成30年3月発行

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