米国が仕掛ける宇宙での新たな軍拡競争にロシアは追随できるのか(写真は米宇宙軍が開発中の極秘宇宙船「X-37B」、米宇宙軍のサイトより)

 2025年1月27日、米国のドナルド・トランプ大統領は「次世代ミサイル防衛システム」の構築を目指す「アメリカのためのアイアン・ドーム」と題する大統領令を発出した。

 米国に対する弾道ミサイル、極超音速ミサイル、先進的な巡航ミサイルなどによる攻撃への防衛力を強化するためだ。

「アイアン・ドーム」とは、イスラエルが米国の資金提供を受けて開発し、2011年に実戦配備した防空システムで世界最強との呼び声が高い。

 イスラエルのアイアン・ドームは、Counter-RAM(Counter-rocket, -artillery and-mortar)に分類される近接防空システムである。

 他方、米国が構築を目指す「次世代ミサイル防衛システム」は、宇宙ミサイル防衛システムである。

 トランプ大統領は、イスラエルのアイアン・ドームの持つ「鉄壁のシールド」というイメージを強調したかったのであろうと筆者は見ている。

 さて、本大統領令は、現在整備が進められている「極超音速および弾道ミサイル追跡宇宙センサー」(HBTSS)、「拡散型戦闘宇宙アーキテクチャー」(PWSA)の開発・導入を加速する目的がある。

 さらに、セクション3の(ⅲ)項で「ブーストフェーズ迎撃が可能な拡散型宇宙配備迎撃ミサイルの開発と導入」を求めている。

 この「宇宙配備迎撃ミサイル」は、ロナルド・レーガン大統領(当時)が提唱した戦略防衛構想(SDI)、なかんずく、ブリリアント・ぺブルズ(Brilliant Pebbles)*1を想起させるものである。

*1=1987年にローレンス・リバモア研究所の2人の研究者によって提唱された宇宙配備の弾道ミサイル防衛システム(後で詳解)。

 一方、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は1月31日の記者会見で、トランプ氏の計画を次のように非難した。

「(米国の計画は)宇宙配備型迎撃システムの開発と配備を含む、米国の核兵器と宇宙での戦闘遂行手段の大幅な強化を想定している」

「これは米国が宇宙空間を武力衝突の場とし、そこに兵器を配備することに重点を置いていることを裏付けるものだ」(ロイター通信2025年1月31日)

 1983年3月、当時のレーガン大統領は「戦略防衛構想」(SDI:Strategic Defense Initiative)を打ち出し、国防費を大幅に増額した。

 その目的は、国防費に多くの国家予算を割き続け、国民経済が疲弊していた旧ソ連に圧力をかけるためだった。

 まんまと罠にはまった形の旧ソ連は、米国に負けまいと、より一層の国防費を注ぎ込み、国家財政の破綻を招いてしまった。

 米国の仕掛けた軍拡競争が、旧ソ連を崩壊に導く大きな要因になったという説はかなり有力である。

 今、長引くウクライナ戦争でロシアの経済は疲弊している。また、不動産不況や内需停滞などにより中国の経済は低迷している。

 トランプ大統領は、ロシアや中国を標的に、軍拡競争を仕掛けて2匹目、3匹目のドジョウを狙っているのであろうか。

 以下、初めに「アメリカのためのアイアンドーム」と題する大統領令について述べ、次に戦略防衛構想(SDI)における「宇宙配備迎撃ミサイル」の研究開発について述べる。