tl;dr
- 稟議書は「回覧板」である
多様な読み手に向けて書くことを意識しよう - 読み手が稟議書を読むとき、あなた(起案者)は現場にいない
意思決定に必要な情報は全て書いておく - 「買う理由」ではなく「実現したい未来」を明記する
稟議書とは回覧板なのだ
回覧板とは、町内会などでお知らせを“バケツリレー”式に共有する仕組みです。
例えば、お祭りの日程や町内会費の徴収、ご高齢の方へのお祝いの予定などをA4用紙にまとめて回覧します。内容によっては「読みました」の欄にサインをすることもあります。
なぜこんな手間をかけるのかというと、町内会にはいろんな人がいるからです。夜勤がある人もいれば、そもそも町内会活動に時間を割けない人もいる。そうなると、全員が同期的に集まって話をするのは難しいですよね。
そこで回覧板を使えば、会議や電話と比べて時間はかかるものの、非同期的にほぼ確実に情報を届けられるわけです。
稟議書もこれと同じです。会社の重大な意思決定にあたって、多角的な検討をしたい。でも営業は外回りで忙しいし、エンジニアはそもそもデジタルの向こう側にいて捕まりづらい……。そんなときに稟議書を回覧することで、非同期的に意見や知見を集約し、組織として意思決定できるのです。これこそが稟議書の存在意義と言えます。
議事録の読み手は様々な背景と動機を抱えている
さて、稟議書を読むのは誰でしょう?
社長? 財務? それとも上司?
まず社長と財務では稟議書を読むときの“動機”が違います。
- 社長:事業を前進させる新しいアイデアを探しているかもしれない
- 財務:企業の財布を守りたい。要不要を見極めたり、投資の優先順位を付けたい
財務向けの情報ばかり書いても社長には刺さらないでしょうし、その逆も同じだというのはイメージいただけるでしょうか。
あるいは社長と上司という組み合わせでも、背景が異なります。
- 上司:あなたと同じ業務範囲を把握している(ツーカーで通じることもある)
- 社長:現場レベルの詳細や解像度を共有していない場合が多い
社長が稟議書を読むタイミングで、起案者であるあなたはそこにいません。
チャットなどで質問が飛んでくればラッキーですが、もし憶測や推測で意思決定がなされると、本来得られたはずの機会を失ったり、予想以上のダメージを被ったりするリスクもあります。
読み手ごとの疑問に先回りして回答する
情報が足りず誤読される隙を無くすために、どんな稟議書を書くべきか。
キーワードは「業務想定」です。読み手は何を知りたがり、どんな基準で判断するのか? あなたが本当に伝えたいポイントは何か?これらを押さえるために、「この稟議書を読んで、あの人はどんな質問をするだろう?」と想像して、あらかじめ回答を用意しておきましょう。
例えば、こんな疑問が想定されます。
- 「前に実行したあの施策とはどう違うのか?」
- 「この投資はいつ、どのような形で回収できるのか?」
- 「他に検討されている施策との差別化点は何か?」
- 「顧客にどのような変化をもたらすのか?」
- 「不調に終わったときの代替策(コンティンジェンシープラン)は?」
社長・財務・上司といった立場ごとの着眼点も整理しておくと、さらに書きやすいです。
稟議とは未来を生み出す起爆剤
とはいえ、全ての疑問を網羅的に書くと時間も紙幅もかかります。
そのため、せめて「この施策が提案された背景」と「この施策によって実現したい未来」だけは確実に書いておきましょう。
これらの情報は、あなたのアイデアと意欲に共感してもらい、仲間として一緒に動いてもらうために必要最低限の要素だからです。
稟議書は単なる「お金の使用許可申請書」ではなく、回覧板でしたよね。
回覧板で町内会を巻き込み、行動してもらうための仕組みと同じように、稟議書は社長も財務も上司も営業もエンジニアも、みんなを仲間として巻き込むための起爆剤になり得ます。
だからこそ、あなたが熱意を注いで生み出したアイデアを、そのままの勢いで書式に落とし込みましょう。数字を使ったり、成功時のイメージを具体的に描いたりすると、より強く心に訴えかけられます。
まとめ
- 稟議書は回覧板のように非同期コミュニケーションを可能にするツール
- 読み手の背景や判断基準を先読みし、必要な情報をしっかりと書き込む
- 「買う理由」ではなく、「この施策で実現したい未来」を具体的に示す
稟議書は、単に「承認をもらうための形式的な書類」ではありません。
あなたの「熱意」や「未来を創りたい」という想い、情熱を伝えるためのメディアでもあるのです。
ぜひ、そのモチベーションを惜しみなく注ぎ込んで、読み手を動かす稟議書を作成してみてください。