2025-02-21

AI小説

"ハンドカフ・エレジー"

I

ステージの上、青く透き通る水槽ライトが水面に反射して、まるで星が揺れているように見える。観客席のざわめきが波のように押し寄せては引いていく。

「ぺこーらは、この水槽から……60秒以内に脱出するぺこ!」

彼女はいものように笑った。大丈夫成功する。今まで何度もやってきた。今日だって、いつもと同じ。違うはずがない。

「3…2…1…スタート!」

水槽の蓋が閉じる。重い音が響く。隔離された空間

脱出開始。

II

水が冷たい。

手首のハンドカフが食い込む。

足元の鎖が重い。

(いつも通り……やれば……)

鍵を口の中から指先に移す。小さな金属が、彼女生命線。鍵穴に差し込む。

(開け、開け……ぺこ……)

手がかじかむ。冷たさのせいか、それとも別の何かか。

残り40秒。

鍵が穴にうまく入らない。指先が震えている。いつもなら、もっとスムーズにできたはず。焦りが募る。

観客席の向こう、司会者の声が微かに聞こえる。

「……ぺこら選手どうでしょうか?」

30秒。

鍵が滑る。指の間からするりと抜け、水中に落ちる。

「──!」

必死に掴もうとする。でも、水流がそれを遠ざける。指先が空を切る。

水面の向こう、ライトがゆらめく。

(……まだいける、まだ……)

手錠をこじ開けようとする。無理だ。力が足りない。指が痛い。時間がない。

20秒。

肺が悲鳴を上げる。水の中にいる時間が長すぎた。心臓がドクドクと鳴る。体が強張る。息を吸いたい。

(開かない、開かないぺこ……!)

水槽の外、スタッフが顔を見合わせる。観客のざわめきが大きくなる。

10秒。

助けを呼べない。

声は水に溶ける。叫びたい。でも、口を開けば水が入る。

ライトが眩しい。頭がぼんやりする。手が動かない。

(まだ、まだ……)

──5秒。

視界が狭くなる。耳鳴りがする。足が動かない。指が動かない。

(……だれか……)

──0秒。

水槽は静かだった。

青いツインテールゆらゆらと揺れる。小さな手がゆっくりと沈む。

観客席が悲鳴に包まれる。スタッフが駆け寄る。でも、水槽の蓋は動かない。

ぺこらは、ただ、水の中で目を閉じる。

「……ぺこーらは……つよい……うさぎ……」

最後の泡が、水面へと上がった。

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