競走馬の蹄鉄、お守りに生まれ変わり 障害者の就労支援、滋賀・栗東

馬のひづめを保護し、幸運のアイテムともされる蹄鉄。競走馬がレース前に調整する拠点、日本中央競馬会(JRA)のトレーニングセンターがある滋賀県栗東市の社会福祉法人「パレット・ミル」では蹄鉄を譲り受け、障害がある人が磨いて「お守り」として販売し、就労支援に役立てている。
パレット・ミル常務理事の中山みち代さん(76)が、センターの競走馬に蹄鉄を装着する装蹄師の知人から「役に立たないか」と譲り受けたのがきっかけ。「中世の欧州で厄よけとされていたことをテレビで知り、お守りとして販売することをひらめいた」と話す。
センターでは、競走馬の蹄鉄を2~3週間で交換。月に約1万個の蹄鉄をリサイクルに出したり、廃棄したりしているという。
蹄鉄を生まれ変わらせる作業は至ってシンプル。使用済みの蹄鉄を水に漬けて、ひづめに装着するための溝や穴から土や芝草を取り除き、表面をブラシで磨く。食品のような取り扱いの難しさがなく、屋内で椅子に座って作業できるからこそ集中できる人もいる。就労支援事業所で働く女性(30)は「蹄鉄を磨いてきれいにするのが楽しい」と話す。
蹄鉄は一つ一つ、ひづめの形に合わせて作られるため全て形が違う。丁寧に磨かれた「お守り」は1個880円で販売し、平均で月に200~300個を売り上げる。市内の神社に卸したり、インターネットでも販売したりするなど、徐々に販路を拡大している。
昨年12月からは「馬のまち」をPRする栗東市のふるさと納税の返礼品に採用され、市の担当者は「馬のまちと福祉が織りなす栗東市ならではの返礼品になった」と自信をのぞかせる。
「障害がある中で、自分に適した働き方を見つけてほしい」と願うのは、事業所所長の佐藤博志さん(63)。地域の産業と密着しながら自身の働き方を考え、一般就労へのきっかけになればと思いを巡らせている。競走馬の脚を守ってきた蹄鉄が新たな道を開く。
◎蹄鉄
主に馬のひづめの摩耗を防止するために装着される道具。装着することで、運動能力の向上やストレスが緩和されるといった効果もある。装蹄師は馬に装着している蹄鉄を外し、伸びたひづめを整え、新しい蹄鉄を形に合わせてくぎで打ち付けて締める、という一連の作業を競走馬一頭一頭の状態や環境に合わせて、2~3週に1度行う。