これ必読、と会社の若い連中にも言っていたのですが出版後1年経っての紹介になってしまいました。
本書は、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントの新興国担当ディレクターですが、 BRIC's(*)という言葉に沸いたこの2000年代-著者曰く「この10年間は、多くの国が「世界の環境がたまたまそうなった」という偶然にただ乗りして繁栄してきた」-の総括と、 次に予想成長率を上回る成長を遂げる「ブレイクアウト・ネーション」はどこかを考察するものです。
(* 今では"Fragile 5"などというのが流行のようですが、時代、というかお金の動きは本当に速いですね)
訳者もあとがきで許諾を得て紹介していますが、本書のベースになった著者の論文について かんべえ氏のブログ(この11月20日の項をご参照) で的確な紹介がされています。
私がそれ以上のまとめができるはずもないので内容の説明はそちらに譲ります。
著者は、将来を見とおすこと、また、経済成長のための的確な政策をとることは簡単なことではなく、一つの答えなどない、ということを強調します。
ある国が成長し、あるいは成長しないのはなぜか?その理由にはさまざまな要素の組み合わせが考えられる。 誰もその正しい組み合わせを言い当てることなどできはしない。魔法の公式は存在せず、誰もが思いつきそうな、ただ長いだけのリストが示されるだけだ。モノ、金、人が自由に行き来できる自由な市場、貯蓄の奨励・・・(中略)・・・道路や学校の整備、子どもたちへの栄養補給、等々である。しかし、これだけでは机上の空論だ。こうした決まり文句は正しくても、そこには中身がない。これらがどう組み合わされれば、ある国がある時期に成長を実現できるのか、あるいはできないのか。単なる「やるべき仕事のリスト」をいくら並べたてたところで、上記のような本当の意味での深い思考や創意工夫がなされなければ意味がないのである。
「ブレイクアウト・ネーションズ」を見つけ出すには、その時々にどのような経済力や政治力が力を持っているのか(それともいないのか)を見極める判断力を持って旅することが大切である。世界経済の成長力は低下し、世の中の形が大きく変わろうとしている。そうした時代のただ中にあって、われわれは新興国を、全体としてではなく、個別に見はじめる必要がある。
そして、本書で著者独自のその国の政治経済のポテンシャル・リスクを見極めるための物の見方を、 取り上げる国に即して紹介しています。
「百聞は一見に如かず」と言いますが、「一見」にも熟練者にはノウハウがある(しかも何回も現場に足を運んでいる)ことがよくわかりますし、 バイアスから自由になる必要があることを痛感します。
「目から鱗」という以上に、語っている内容が濃いので、繰り返して必要なところを読み返すのにいい本です。