イギリス人のフードジャーナリストが、日本の食文化を知ろうと、小さい子供を連れて家族4人で、3か月かけて北は北海道から南は沖縄まで、そして超A級の料亭(これはもちろん子供抜き)からB級まで食べ回ったエッセイ。
フードジャーナリストだけあって、事前の知識もそれなりにあり、また、日本でのコーディネーターを手配して、いわゆる普通の旅行者は行かないような店や辻調や服部も訪問するなど、単なる素人の旅行とは違う。
一方、本の原題は"SUSHI AND BEYOND:What the Japanese know about Cooking"とあるが、内容は日本料理の勉強や文化的背景の解説、味の評価というものだけでなく、日本文化や子供たちの反応、日本の飲食サービスへの驚きなど内容はグルメ話だけにとどまらないし、そこが食の専門家でない自分としては面白い。
なので、この本を読んで「日本料理(文化)を語るなら○○に行かなければ本物ではない」などと目くじらを立てるのは無粋なんじゃないかと思う。
2012年は訪日観光客が1000万人突破して政府(観光庁だけ?)は喜んでいたり、2020年東京オリンピック・パラリンピックで「オ・モ・テ・ナ・シ」をアピールするなら、こういう人たちにどう楽しんでもらうかを考えるきっかけにしたらいいと思う。
このフードジャーナリスト一家も、寿司や天ぷら、懐石などを堪能したりするだけでなく、ラーメンやお好み焼きを食べたり居酒屋に行ったり、相撲部屋を見学してちゃんこ鍋を食べたり、酒蔵見学をしたり、ドッグス・ギャラリーという犬カフェのようなもの(現在閉店)に行ったりしている。
つまり、食をきっかけに「日本」を楽しんでいるわけ。
だから、おもてなす側としても、訪日客は一つのことにだけ興味があるわけではないし、なんかいろいろ面白そうだぞ、と思わせるきっかけをつくることが大事なんだと思う。
こっちが売り込もうと思っているものがウケるとは限らないし、だいたいにおいて予想は外れるものである。
聞くところによると、東南アジアの団体客の間では日本のショッピングセンターの隅に置いてある「ガチャガチャ」が親戚の子供への土産として人気らしく、春節の時期などものすごい売り上げになるらしい。
コンパクトで個別にカプセルに入っていて種類が豊富でしかも安い、というのがポイントなのだろう。
でも政府は相変わらず縦割りな感じ。
文部科学省はオリンピック・パラリンピックだけしか関心がなさげだし(それでも厚生労働省所管だったパラリンピックと一本化することになっただけでも進歩かもしれない)、観光庁(国交省)訪日観光客「数」を増やすのが目標のようだし、食文化のアピールは農水省(ユネスコ無形文化遺産に認定されて大喜びしてるけどそれでいいのか?)、「なんとかカフェ」だと「クール・ジャパン」を売り込んでいる経産省が出張って来そうだし、挙句の果てに酒蔵見学だと財務省が出てきたりしそうである(少なくとも製品になる前のしぼりたての原酒を味見させるのは酒税法違反だとかの通達ぐらいは出しそう)。
この本のように、旅行者がいろいろなことを考えて発信してくれている本はありがたいと思うし、参考にすべきだと思うのだが。