一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『大相続時代がやってくる すっきりわかる仕組みと対策』

2014-02-26 | 乱読日記

書名からは「売らんかな」の匂いがしますが、内容的には良書だと思います。

今回の相続税改正(基礎控除額の引き下げ)について「あなたも相続税が課税される」と あおるのではなく、相続制度と相続税全体をもれなく、かつわかりやすく解説したうえで、 著者の税理士としての経験から、トラブルになりやすい具体例をあげています。

相続税の改正により関心を持ったのであれば、これを契機に財産面での人生設計を ちゃんとしてみませんか、というのが著者の問いかけです。

よくよく考えてみてください。財産を遺す立場でいえば、相続税を心配する必要があるのは 人生で一度きりです。それよりも、消費税の増税や住宅ローンの金利変動のほうが、よほど影響が大きいはずです・・・(中略)。  
それに比べれば、税制改正による実質増税といっても、相続税などせいぜい200万円程度の上乗せです。 生前贈与の仕組みを使えば、ゆうに解決できるレベルですね。いろいろな情報が飛び交っていますが、煽られて振り回されることのないよう、 相続の本質を見据える必要があります。  
(中略)・・・結局のところ、大事なのは、自分の財産をどうしたいのかという個々人のビジョンなのです。

新書版で簡単に読めますので、資産や兄弟が多かったりする方は、まずはご自身でも読んでみられることをおすすめします。


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『英国人一家、日本を食べる』

2014-02-23 | 乱読日記
イギリス人のフードジャーナリストが、日本の食文化を知ろうと、小さい子供を連れて家族4人で、3か月かけて北は北海道から南は沖縄まで、そして超A級の料亭(これはもちろん子供抜き)からB級まで食べ回ったエッセイ。

フードジャーナリストだけあって、事前の知識もそれなりにあり、また、日本でのコーディネーターを手配して、いわゆる普通の旅行者は行かないような店や辻調や服部も訪問するなど、単なる素人の旅行とは違う。

一方、本の原題は"SUSHI AND BEYOND:What the Japanese know about Cooking"とあるが、内容は日本料理の勉強や文化的背景の解説、味の評価というものだけでなく、日本文化や子供たちの反応、日本の飲食サービスへの驚きなど内容はグルメ話だけにとどまらないし、そこが食の専門家でない自分としては面白い。

なので、この本を読んで「日本料理(文化)を語るなら○○に行かなければ本物ではない」などと目くじらを立てるのは無粋なんじゃないかと思う。


2012年は訪日観光客が1000万人突破して政府(観光庁だけ?)は喜んでいたり、2020年東京オリンピック・パラリンピックで「オ・モ・テ・ナ・シ」をアピールするなら、こういう人たちにどう楽しんでもらうかを考えるきっかけにしたらいいと思う。


このフードジャーナリスト一家も、寿司や天ぷら、懐石などを堪能したりするだけでなく、ラーメンやお好み焼きを食べたり居酒屋に行ったり、相撲部屋を見学してちゃんこ鍋を食べたり、酒蔵見学をしたり、ドッグス・ギャラリーという犬カフェのようなもの(現在閉店)に行ったりしている。
つまり、食をきっかけに「日本」を楽しんでいるわけ。

だから、おもてなす側としても、訪日客は一つのことにだけ興味があるわけではないし、なんかいろいろ面白そうだぞ、と思わせるきっかけをつくることが大事なんだと思う。
こっちが売り込もうと思っているものがウケるとは限らないし、だいたいにおいて予想は外れるものである。

聞くところによると、東南アジアの団体客の間では日本のショッピングセンターの隅に置いてある「ガチャガチャ」が親戚の子供への土産として人気らしく、春節の時期などものすごい売り上げになるらしい。
コンパクトで個別にカプセルに入っていて種類が豊富でしかも安い、というのがポイントなのだろう。


でも政府は相変わらず縦割りな感じ。
文部科学省はオリンピック・パラリンピックだけしか関心がなさげだし(それでも厚生労働省所管だったパラリンピックと一本化することになっただけでも進歩かもしれない)、観光庁(国交省)訪日観光客「数」を増やすのが目標のようだし、食文化のアピールは農水省(ユネスコ無形文化遺産に認定されて大喜びしてるけどそれでいいのか?)、「なんとかカフェ」だと「クール・ジャパン」を売り込んでいる経産省が出張って来そうだし、挙句の果てに酒蔵見学だと財務省が出てきたりしそうである(少なくとも製品になる前のしぼりたての原酒を味見させるのは酒税法違反だとかの通達ぐらいは出しそう)。


この本のように、旅行者がいろいろなことを考えて発信してくれている本はありがたいと思うし、参考にすべきだと思うのだが。






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『ブレイクアウト・ネーションズ』

2014-02-19 | 乱読日記

これ必読、と会社の若い連中にも言っていたのですが出版後1年経っての紹介になってしまいました。

本書は、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントの新興国担当ディレクターですが、 BRIC's(*)という言葉に沸いたこの2000年代-著者曰く「この10年間は、多くの国が「世界の環境がたまたまそうなった」という偶然にただ乗りして繁栄してきた」-の総括と、 次に予想成長率を上回る成長を遂げる「ブレイクアウト・ネーション」はどこかを考察するものです。
(* 今では"Fragile 5"などというのが流行のようですが、時代、というかお金の動きは本当に速いですね)

訳者もあとがきで許諾を得て紹介していますが、本書のベースになった著者の論文について かんべえ氏のブログ(この11月20日の項をご参照) で的確な紹介がされています。
私がそれ以上のまとめができるはずもないので内容の説明はそちらに譲ります。


著者は、将来を見とおすこと、また、経済成長のための的確な政策をとることは簡単なことではなく、一つの答えなどない、ということを強調します。  

ある国が成長し、あるいは成長しないのはなぜか?その理由にはさまざまな要素の組み合わせが考えられる。 誰もその正しい組み合わせを言い当てることなどできはしない。魔法の公式は存在せず、誰もが思いつきそうな、ただ長いだけのリストが示されるだけだ。モノ、金、人が自由に行き来できる自由な市場、貯蓄の奨励・・・(中略)・・・道路や学校の整備、子どもたちへの栄養補給、等々である。しかし、これだけでは机上の空論だ。こうした決まり文句は正しくても、そこには中身がない。これらがどう組み合わされれば、ある国がある時期に成長を実現できるのか、あるいはできないのか。単なる「やるべき仕事のリスト」をいくら並べたてたところで、上記のような本当の意味での深い思考や創意工夫がなされなければ意味がないのである。

「ブレイクアウト・ネーションズ」を見つけ出すには、その時々にどのような経済力や政治力が力を持っているのか(それともいないのか)を見極める判断力を持って旅することが大切である。世界経済の成長力は低下し、世の中の形が大きく変わろうとしている。そうした時代のただ中にあって、われわれは新興国を、全体としてではなく、個別に見はじめる必要がある。

そして、本書で著者独自のその国の政治経済のポテンシャル・リスクを見極めるための物の見方を、 取り上げる国に即して紹介しています。  

「百聞は一見に如かず」と言いますが、「一見」にも熟練者にはノウハウがある(しかも何回も現場に足を運んでいる)ことがよくわかりますし、 バイアスから自由になる必要があることを痛感します。  

「目から鱗」という以上に、語っている内容が濃いので、繰り返して必要なところを読み返すのにいい本です。




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『アマン伝説 創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命』

2014-02-15 | 乱読日記

ずっとサボっているうちに本のレビューもしなくなってしまったので、徐々に再開します。

本書は、少数のコテージでホスピタリティあふれるサービスを提供する高級リゾートホテルというスタイルを 確立したアマン・グループの創設者であるエイドリアン・ゼッカをめぐるドキュメンタリー。

ゼッカの日本とのつながり、アマン・スタイルを作った建築課との出会い、からはじまり、 1980年代の香港の伝説のホテル、ザ・リージェントに携わってからホテル経営に 転じるあたりまで遡ります。
そこでは高級リゾートホテルの歴史だけでなく、今では有名な数々のリゾートホテルがアマンの共同経営者などが独立して設立したと知ると面白さもひとしおです。

また、日本のバブル紳士も相次いで登場したり、日本で計画されて没になった案件もいくつか紹介されています。 (本ブログでもちょっと触れた(*1 *2 *3 )アーバンコーポレーションとの提携とその倒産も影響していたようです。)


本書の出版後、アマンは東京に次いで京都への進出も発表しましたが(参照)、 本書で紹介されているゼッカと多くの共同プロジェクトを行ってきた人物の

「京都は、どんなに時間がかかっても、彼はオープンさせると思いますよ」

の言葉が裏打ちされたことになります。


アマンといえば自然環境とホスピタリティ、そして高級というイメージが浮かびますが、エイドリアン・ゼッカを取り巻く人は、アマンのビジネスモデルをこう評しています。

「アマンの凄さは、土地を見極める能力が彼にあることだと思います。でも、その土地選びの能力は、ノウハウとして確立されていないのです。それと、はっきり言ってしまえば、でき上がったものに興味はない。オペレーションでは儲かっていなかったと思います。土地を動かす時に、不動産屋として儲ける、それがエイドリアン・ゼッカの手法なんです。土地のイメージを膨らませて、こだわって、ケリー・ヒルとか使って形にしてゆく。造るまでが、アドレナリン吹きまくりなんですね」

「ゼッカはね、一部屋あたり2000万円までであれば、儲かりますって言うんですよ。最高の自然環境に安く建てるのがポイントだって言っていたね。 ・・・」

これに加え、著者は次のように分析しています。  

そもそも、アマンリゾーツの最もエッジの効いた革新は、マーケティングやPRの手法、そしてブランディングだったと思う。

いかにしてコストを削り、効率化するか、ではなく、いかにしてコストの低いものを高く売るか、ということにおいて、アマンは巧みだった。


そんなこと気にせずにリゾートホテルを楽しめばいいではないか、という考えもあるとは思います。
ただ、 まだアマンに泊まったことのない私としては、もし泊まる機会があれば楽しみが増える本だと思います。

ところで、本書でも触れられていますが、著者の山口由美氏は箱根富士屋ホテルの一族の出身で、 子供の頃リージェントの後の総支配人となったロバート・バーンズがカハラヒルトンの支配人だったころに 宿泊した思い出なども語っています。
一方で、箱根富士屋ホテルは、1966年に国際興業グループに株を譲渡し、山口一族は経営から退いています(wikipedia「富士屋ホテル ホテルヒストリー」など参照)。
その当時、国際航業はハワイのホテルを次々と買収し、一方当時のライバルの東急の五島昇はバーンズと共同出資でリージェント を立ち上げています(香港のザ・リージェント開業前に資本関係を解消)。
著者としても日本の名ホテルの軌跡や近年誕生した新しいタイプのホテル・旅館の経営についても思うところがあるでしょうが、それは次回作に期待したいと思います。


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