夏以降、天気の悪い夜ばかりだった印象の今年ですが、11月後半になってようやく冬型の気圧配置が現れるようになってきました。冬の星座もそこそこの時刻に昇ってくるようになりましたし、関東地方ではこれからが天体写真シーズン本番です。
まずは先の日曜日。翌日は普通に仕事でしたが、待ちに待った冬型の気圧配置だったので、遅くとも22時ごろまでと時間を区切って、いつもの近所の公園へ出撃してきました。
この夜狙うは、ケフェウス座にある大型の散光星雲IC1398です。昔から憧れていた天体の1つですが大変淡く、東京都心……とりわけ北天の光害がひどいこの場所からは、かなりの困難が予想されます。加えて、人工光が多い夜半前という悪条件。とはいえ、前回の勾玉星雲もなんとかなりましたし、手も足も出ないことはないでしょう。
一応、今回は「悪あがき」として、使用する光害カットフィルターを、普段使っているIDASのLPS-P2からOPTOLONGのCLS-CCDに変更しています。LPS-P2は比較的幅広い波長の光を透過するのに対し、CLS-CCDはOIII, Hβ付近、およびHα付近の光しか透過しません。一般にLPS-P2の方がカラーバランスは取りやすいのですが、光害カット能力はCLS-CCDの方が高く、また散光星雲であるIC1398は主にHα線で輝いているので、CLS-CCDに向いています。
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まぁ、向き・不向きを言うなら、むしろHαのナローバンド向きの天体ではあるのですが……(^^;
空の条件のいいところで撮られたIC1396の写真を見ると、反射星雲のようなやや青っぽい成分もありそうなのですが、東京都心からではなかなかそこまで写らないでしょうから、おそらく問題にはならないでしょう。
CLS-CCDでは透過波長が限られる分、光量が大きく落ちるのが難点ですが、そこは光学系の明るさでカバー。今回は1コマ当たり15分の露出をかけていますが、F3.6だからこそこの程度で済むともいえます。
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撮って出しの画像では、光害にかき消されて案の定何も見えませんが、この程度は想定の範囲内。その場で強調してみると、星雲が見えるような気がしなくもなかったですが、星雲の形が丸っぽいだけに、周辺減光と区別がつきません(^^; とりあえず、星の並びを参考に構図を決定して撮影を続行します。
途中、雲に邪魔されたりもしましたが、どうにか12コマを確保。本当はキリよく16コマ撮影するつもりだったのですが、12コマ目を撮った直後から高層雲が全天に広がり、ここで撤収となりました。まぁ、S/N比的には(√16)/(√12)≒1.15倍しか違わないので、大きな影響はないでしょう。
で、これらをコンポジット後、RGB分割フラット補正で周辺減光を均し、各種マスクで星雲部分のみを強調し……と、あれやこれやと処理を加えて出てきたのがこちら。
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2017年11月19日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出900秒×12コマ, OPTOLONG CLS-CCD使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理
猛烈な光害の影響で、さすがに露出不足の感は否めませんが、ちょうど「ばら星雲」を大きくしたような姿を捉えることができました。
星雲の左上にあるオレンジ色の星がケフェウス座μ星で、3.4等〜5.1等の間で周期的に明るさの変わる変光星です。太陽の1000倍ほどもの直径がある赤色超巨星で、肉眼で見える星の中では最も巨大なものの1つです。そのあまりの赤さから、ウィリアム・ハーシェルによって「ガーネットスター」の愛称が与えられました。
「ガーネット」はご存知の通り、宝石の「ざくろ石」のこと。IC1396が色といい形といい、ザクロの実っぽく見えるのと、奇妙な符合を感じます。*1
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星雲の方は、内部に暗黒星雲が複雑に入り組んでいるのが分かります。なかでも有名なのは、星雲中央右側に見える、暗黒星雲の縁を明るいS字状のリムが取り囲んでいる構造で、「象の鼻星雲(Elephant's trunk nebula)」という愛称がついています。
それにしても、覚悟はしていましたがかなりの淡さです。結構強引な処理をしている自覚はあるので、以前撮ったハート星雲&胎児星雲、勾玉星雲などを含め、このあたりの天体が今の手持ち機材、現在の自分の手技、この場所の空の状態で普通に撮れる*2限界に近いんじゃないかと思います。*3
まぁ、東京都心&非ナローバンド、非冷却で、それなりに姿がとらえられる時点で御の字と言っていいのかもしれません。