落とし穴だらけ!CMS都市伝説

CMSにデータベースを用いると制作が楽になる……とは限らない

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落とし穴だらけ!CMS都市伝説

第四回
CMSにデータベースを用いると制作が楽になる……とは限らない

いまやウェブサイトの運営にCMS(コンテンツ管理システム)は欠かせない。サイトのコンテンツ更新コストの削減、トラブルのないワークフローの確立、サイト全体にわたるデザイン変更、他のシステムとの連携によるコンテンツ表示など、CMSで実現できることは多く、ウェブサイト運営の要ともなり得る。

しかし、CMSは単に導入すればいいものではない。サイトの性質や組織によってどのCMSを選べばいいのかや注意すべき点などは異なる。間違ったCMS導入をしてしまうと、コストばかりかかって効果を得られない結果を生んでしまう。成功と失敗を分ける要因は何か。世にはびこるCMSに関する「勘違い」「理解不足」による都市伝説をあげながら、正しいCMS導入を解説しよう。

石村雅賜(株式会社ビジネス・アーキテクツ)

今回の都市伝説

コンテンツ管理にデータベースを用いると、制作が楽になる。

CMSにデータベースを導入成功の鍵を握るのは?

コンテンツ制作にデータベースを用いることは10年以上前から行われている。

筆者が10年以上前に手作りのCMSを開発した際にも、コンテンツデータ(タイトル、本文や、ラベル、ページの制作者、制作日時、カテゴリ、掲載期間などの属性情報)をデータベースで管理することによって、以下のような機能を実現した。

  • ニュースリリース一覧、新着コンテンツ一覧、カテゴリごとの記事一覧など、各種一覧ページの自動生成
  • カテゴリ検索機能の実現
  • 指定時間公開/時限公開の自動制御
  • 公開履歴の記録

このときに開発した機能は、その後5年以上の長い間、有効に利用されていた。このように、コンテンツ制作においてデータベースは大きな威力を発揮できる。

しかしながら、この便利な部分だけに注目すると、大きな落とし穴にはまることになる。

データベースを用いたコンテンツ生成機能を、ここでは「CPDB」と呼ぶとしよう(CPBDとは、造語であるが「Content Publishing with Data Base Management System」、つまりデータベース管理システムを使ったコンテンツ発行の意味だ)。

CPDBを利用すればコンテンツの管理が大幅に楽になるという幻想を抱いた担当者から相談をうけることは少なくない。しかし、結論を先に述べると、手作業で運用できていたコンテンツに対してCPDBを導入しても、コンテンツ制作が楽になるケースはとても少ない。

安易にCPDBを導入した場合、導入や運用の労力に対して得られる価値が少なく、かといって多大な費用をかけて導入したCPDBを捨てられないという状態に陥ってしまうことになる。そう、CPDBの導入には、大きなコスト(導入費用、社内関係者を含めた多大な工数)を必要とするのである。

システムの導入に費用がかかるということは、かけた費用を上回る効果を得られなければ意味がない。つまり、現状で運用に過大なコストをかけすぎているのでない限り、CPDBは既存のコンテンツの運用に用いるのではなく、サイトに新たな価値を生むために利用するべきなのである。

つまり、CPDB導入を成功させる鍵は「ビジネスに対する明確なビジョン」「社内調整能力」「プロジェクト設計能力」である。この記事では、CPDBの構造設計や構築のノウハウを紹介しながら、なぜCPDBの鍵が上記のとおりなのかについて説明する。

レンタルサーバー完全ガイド
図1 CPDBの一例「レンタルサーバー完全ガイド」では、1800件以上のレンタルサーバー情報のデータベースをCPDB化しており、情報ページはすべて自動的に生成しているので、各ページの生成にウェブマスターは何もしなくていい。
レンタルサーバー完全ガイド http://rs.impressrd.jp/

CPDBを実現する2つの方法

CPDBを利用したコンテンツ管理システムを実現するには、大きく分けて2つの手法がある。

  1. FatWireやNORENに代表されるような既存のCMS製品を利用する。

    この場合、ちょっとしたことでもそのCMS用にデータ構造を定義して入力画面を設計する必要のあるツールと、特に設計は必要のないツールがある。

    前者はどんなコンテンツでも扱え、どんな表示にでもできるが、設計の工数がかかってしまう。後者は、一般的なコンテンツ(タイトル、本文、公開日時など)ならば手間なく導入できるが、製品データベースと接続するような複雑なことは苦手になる。

  2. CPDBの機能をもったシステムを独自に構築する。

    システムを独自に構築する場合、MySQLやオラクルのような既存のデータベース管理システムを利用する方法と、既存のデータベース管理システムを使わずにテキストファイルなどにデータを保存する方法がある。

    前者はデータベース管理システムを導入する必要があるが、複雑なことも実現しやすく、サイト内検索などにも柔軟に対応できる。後者は、複雑な機能を作るのに手間もかかるうえに大量のコンテンツを扱うのは苦手なので、シンプルでさほどコンテンツ量が多くない場合や、データベース管理システムを利用できないような限られた環境での利用が中心となるだろう。

既存のCMSを導入するとコストが高くつくような印象があるが、独自に作成した場合でも必ずシステム構築の費用が必要になる。CPDBを利用する場合、基本的にある程度のコストがかかることは前提となるだろう。

もし安価に抑えたいならば、Movable Typeなどのブログツールなどを利用するのがいいだろう。ただし、この場合、そのツールの典型的なコンテンツのパターン(Movable Typeならば、ブログ風のタイトル・本文・筆者・日時・カテゴリなど)以外のコンテンツを扱ったり、特別な表示をしようとしたりすると、やはり追加の費用が発生することを前提としてほしい。

典型的なCMSを使った構築の費用としては、表1のような概算で考えるといいだろう。

表1 CMSを使った構築の概算費用とできること
費用できること
20万円~50万円Movable Typeなどのブログツールや、制作会社が作った簡易CMSを使い、パターン化されたサイト構造(サイト内のニュースリリース部分だけのCMS化や、簡単なコーポレートサイト)での構築。
50万円~100万円上記システムに、トップページのデザインや、ちょっとした機能やバリエーションを追加。
100万円~300万円小規模~中規模サイトを商用のウェブCMSを使って構築し、簡単なワークフロー機能を実現。
300万円~500万円中規模~大規模サイトを商用のウェブCMSを使って構築し、ワークフロー機能を実現。コンテンツの性質ごとに何パターンかのコンテンツに対応。
500万円~高機能な商用CMSを使ったり既存のCMSを拡張したりして中規模~大規模サイトをCPDBとして作成。数千ページのコンテンツ、100人以上がCMSを利用するようなサイトでの運用に適うシステムを構築。

CPDBの肝となる要素

どんな方法でCPDBを作ったとしても、次の3つの要素が必要になることに変わりはない(図2)。

  • データベースに格納できるようにコンテンツの要素を「構造化」すること。
  • データベースに格納されているデータを元にして、サイト上で表示するHTMLを生成する機能。
  • データベースにコンテンツのデータを入力したり管理したりする画面や仕組み。
CPDBの肝となる3つの要素は、「コンテンツの要素の構造化」「データベースからHTMLを生成する機能」「コンテンツのデータベースをメインテナンスする機能」
図2 CPDBの肝となる3つの要素は、「コンテンツの要素の構造化」「データベースからHTMLを生成する機能」「コンテンツのデータベースをメインテナンスする機能」だ。この図では、ある会社が扱う製品とアクセサリ(オプション製品)それぞれの情報と、製品とアクセサリの互換性情報をデータベース化する場合を例として示している。(図はクリックで拡大)

HTMLを生成する機能の実現方法は製品ごとに異なるが、代表的な方法としては、HTMLのひな形(テンプレート)を用意しておいて、そのテンプレートの所定の箇所にコンテンツデータを入れ込むための専用「タグ」を記述していく方法である。

一度システムを構築してしまえば、コンテンツのデータをメインテナンスするだけで、そのコンテンツデータを利用してウェブページを自動で生成できる。たとえ1万件分のコンテンツがあろうと、対応する1万ページと、それらのページへたどり着く一覧ページを自動的に生成できる。CPDBとはなんとすばらしいものなのだろうか!

CPDBに適したコンテンツと適さないコンテンツ

しかし注意してほしい。前述のように、CPDBを導入するには、社内外にさまざまな費用(工数)がかかる。コンテンツデータを格納するためのデータ構造を定義する作業、HTMLページを生成するためのテンプレート作り、コンテンツを管理するための仕組み作りなどだ。

もちろん、コンテンツの情報構造を標準化すれば、そういった開発工数をなるべく少なくできる。しかし、コンテンツ情報構造の標準化は意外と困難である。たとえば、自動車の製品紹介コンテンツは、情報構造を標準化できそうなものなのだが、各車の特長を魅力的に伝えるという根本的な目標を突き詰めていくと、車種によって微妙に異なる要素が出てきてしまうものだ。実際のところ、諸元表さえ標準化していないメーカーも多数存在する。

さらには、将来的にコンテンツの情報構造が変化した場合、それに対応するための改造コストがかかってしまう。

つまり、コンテンツの性質によって、CPDBを導入するよりも手で制作するほうが良い場合(図3)と、逆に、ハードルをのりこえてでもCPDBを適用する価値のある場合(図4)があるのだ。

  • 更新頻度が少ないコンテンツ
  • ページごとに情報構造が微妙に異なるコンテンツ
  • 時間とともに情報構造を積極的に変化させていくコンテンツ
図3 CPDBを導入するよりも手で制作するほうが良い場合
  • 1つのコンテンツデータから複数のHTMLページを生成するコンテンツ
  • サイト利用者ごとにページをパーソナライズするコンテンツ
  • 在庫や納期を表示するコンテンツ
  • コンテンツ間の関係(リンク)を深くして相互に行き来できるようにするサイト構造
  • すでにコンテンツのデータベースが別システムで作られている場合
図4 CPDBを適用する価値のあるコンテンツ

ちなみに、図4に示した以外にも、ニュースリリースのような、更新が頻繁で情報構造が決まっているコンテンツには、CPDBの利用が適している。ただし、これらはどちらかというと、サイトに新たな価値を生むためというよりも、運用をスムーズにすることを目的とする側面が強いかもしれない。その場合も、CPDBの利用により軽減される制作コストや更新頻度の向上によるメリットと、構築のコストのバランスを考えておくのが大切だ。

筆者の経験でいうと、CPDBの導入に成功した図4のようなコンテンツには、利用者のベネフィットを上げるということに関して明確な目標があり、成し遂げれば大きな効果を発揮できることが予想されるものだった。明確な目標がないと、大きな投資を決断することや 情報構造を標準化するために関係部門を調整することができない。

冒頭で述べたとおり、CPDB導入の鍵は「ビジネスに対する明確なビジョン」「社内調整能力」「プロジェクト設計能力」ということになるのである。CPDBの導入の難易度はかなり高いということがいえる。

CPDBの可能性

では、難易度が高いからといってCPDBの導入を避けて通れるのだろうか?

極論すると、どんな企業のウェブコンテンツ管理でも、いつか必ずCPDBを用いるべきタイミングが到来する。そのきっかけは、さまざまだが、みなさんもすでに手制作でのコンテンツ管理にさまざまな限界を感じているのではないだろうか?

コスト面では、ページの手制作を続ける限り、制作コストはページ数に比例して増えていく。また、機能面では、製品間の互換性情報や在庫情報のページを手制作で実現することは不可能に近い。あなたのサイトでも、コンテンツ運用の困難さを理由にあきらめているサイトの機能は少なくないのではないだろうか。

また、企業のウェブコンテンツはPC向けだけでは十分ではなくなってきている。携帯電話、スマートフォン、デジタルテレビ、Wii、iPhone……。これらのツールに対応した情報の配信は今後ますます重要になってくる。現状でも、B2B向けのサイトはまだしも、B2C向けのサイトではケータイ向けサイトはほぼ必須になってきている。コンテンツをさまざまな形で見せなければいけない場合、CPDBは欠かせない手法となるだろう。

CPDBを避けていられる時間は着実に減り続けている。CPDB導入に備えて「ビジネスに対する明確なビジョン」「社内調整能力」「プロジェクト設計能力」を磨き始めなければならない。

CMS導入のポイント!
  • データベースを用いてコンテンツ管理をする手法を安易に「楽になるから」で導入すると費用対効果が合わず、逆効果になる場合も。
  • コンテンツに新たな価値を生み出すことこそ、データベースの役割である。
  • 導入は困難だがその価値は高く、ビジネス上の大きな目的を達成するために「明確なビジョン」「社内調整能力」「プロジェクト設計能力」をもって取り組むことが成功につながる。
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