【レポート】Web担当者Forumミーティング 2024 秋

“敏腕営業がいれば安心”は時代遅れ!? チームで売上を最大化する戦略

営業との連携に悩むマーケター必見! 生産性向上を実現する連携強化のポイントを紹介(庭山氏×斎藤氏対談)。

日本の営業力は世界随一といわれながら、なぜ生産性は低いのか。そのカギを握るのが、エキスパート同士が連携する「マーケティングと営業の共創」だ。「Web担当者Forum ミーティング 2024 秋」では、海外のBtoBマーケティング事情にも詳しいシンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役 庭山氏とネットコマース株式会社 代表取締役 斎藤氏による対談を実施。デジタル時代において、その要となるBtoBマーケティングの現況や導入障壁、解決策などを紹介する。

(写真左)シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役 庭山 一郎 氏/(写真右)ネットコマース株式会社 代表取締役 斎藤 昌義 氏

1人の敏腕営業より、4人のエキスパートの連携が生産性を高める

庭山氏によると、数年前までは「マーケティング組織を作りたい」という相談が主だったBtoBマーケティングの話題が、近年では「営業生産性を上げたい」という課題に大きくシフトしているという。

営業生産性とは、営業パーソン1人あたりの売上のこと。たとえば、100人で1000億円を売り上げる企業が1300億円を目指す場合、退職者を見越して40人を採用しようと考えるのが一般的だ。しかし実際には、人員を増やしても売上が期待値に届かず、1200億円止まりになるケースも少なくない。結果1人当たりの売上は10億円から8.6億円に下がってしまうのだ。理想は、人を増やさず売上を伸ばすこと。ここでテクノロジーの活用が期待される。

しかし、庭山氏は「残念ながら、今のままでBtoBマーケティングを導入しても、日本の営業生産性は上がらない」と指摘。さらに「日本の営業は極めて優秀で、かつ誰もさぼっていない。いわば伸びしろがない」と続ける。たとえば日本企業の営業担当者は、新製品の市場選択から商談抽出、顧客対応、クロージング、納品、代金回収、接待、さらには顧客満足度の維持まで幅広く責任を負う。

日本企業の営業の業務範囲(画像提供:シンフォニーマーケティング、以下同)

一方、世界標準では業務が最低でも2分割される。営業担当者がクロージングを担い、マーケティング部門が案件づくりやナーチャリングを担当する。また、多くの企業ではマーケティングと営業の間に「インサイドセールス」、クロージング後に「カスタマーサクセス」を置き、業務を4分割している。各部門には明確なKPIが設定され、デマンドセンターはROMI(マーケティング投資の費用対効果)、インサイドセールスはSAL(有効リード数)、セールスは受注金額、カスタマーサクセスがLTV(顧客生涯価値)を向上させることで最終ゴールを目指す。

世界標準は分業制

庭山氏は、水泳競技の400m個人メドレーの世界記録が4分2秒、4人で泳ぐ400mメドレーリレーが3分26秒であることを例にあげ、以下を強調した。

まさにグローバル市場で同じ戦いが行われている。4人の専門家がリレーする世界型に対し、一人の営業パーソンがすべてを担う日本型が勝てるはずがない(庭山氏)

人を増やさず効果を上げる、分業のカギは「デマンドジェネレーション」

それでは、分業リレーをどう構築すべきか。理論的には「営業のファネル」を想像するとわかりやすい。たとえば、営業が年間100件のSGL(引き合い)を案件化し、そのうち20件を受注したとする。受注率20%を40%に上げるのは難しいが、SGLの数を2倍に増やすことは現実的だ。

過去の展示会で集めた名刺など6万件の個人情報があり、そこから効果的にナーチャリングを行えば、年間400件のMQL(育成リード)を営業に引き渡せるだろう。これを100件のSAL(有効リード)として受け入れれば、既存のSGL100件と合わせて営業の案件数を2倍にすることが可能だ。これがMA(Marketing Automation)によるデマンドセンターの役割であり、その後SALとSGLはSQL(商談化リード)としてSFA(Sales Force Automation)で管理される。これらの仕組みは世界標準と言える。

分業が進む中、業務を担う組織も欧米を中心に変化している。マーケティングではMOps(Marketing Operations)、セールスではSalesOps、カスタマーサクセスではCustomer SuccessOpsといった専門チームが形成され、それらを統合したのがRevOps(Revenue Operations)だ。さらに、RevOpsの責任者としてCRO(Chief Revenue Officer)が配置されるようになっている。

その結果、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスの責任者はCROに報告し、CEOはCROからのレポートだけで売上を予測できる。リージョンごとのCRO配置により、グローバルの売上を一元管理する体制が整いつつある。

CROの配置

ラストワンマイルを担う営業部門が強いほどABMの価値がある

庭山氏が紹介したBtoBマーケティングの理論やトレンドに対し、長年営業に携わってきた斎藤氏はこう語る。

営業は自分のお客様やテリトリーをしっかりとコントロールすることを重視している。それは今も変わらない。マーケティングは存在していても、営業からは広告宣伝程度に見られている。むしろ、顧客を最も理解しているのは自分だという自負が強い(斎藤氏)

これに対し、庭山氏は「欧米でも売上の大半は営業が作ってきたため、マーケティングの役割はブランディングやリサーチにとどまっていた」と応じつつ、以下のように分析する。

営業窓口と実際のユーザーが異なる場合、その両者をつなぐ役割が求められるようになったことが、営業とマーケティングのアライメント重視につながった(庭山氏)

たとえば業務アプリの販売では、営業が接するのは主にIT部門だが、実際にアプリを使いこなし導入を主導するのは業務部門となる。しかし、営業が業務部門にリーチするのは難しい。斎藤氏も、営業は数字を背負うため、共通言語で話せるIT部門から確実に予算を得る方を優先するという。業務部門にアプローチするには労力がかかり、効率が悪いと感じるからだ。だが、IT部門の影響力が低下する現状で、業務部門へのアプローチが欠ければ営業成果が下がるのは避けられない。

こうした課題に対応するのがABM(Account Based Marketing)だ。庭山氏によれば、ABMの目的は得意先の売上最大化だが、導入当初は営業部門から反発を受けることが多いという。庭山氏はこれを「俺の客問題」と表現。営業は新しい市場やロングテールの掘り起こしには寛容でも、上顧客に手を出されることを嫌がるためだ。それでも、営業部が強いほどABM導入後に大きな成果が得られるという。逆に、営業が弱い組織では成果を出しづらい。

「マーケティングが整備されたとしても、最後に”決める”のは営業部門だ」と庭山氏。ABM導入から1年も経てば、営業がアクセスできなかった業務部門のキーパーソンとのルートを開拓できるようになり、感謝されることが多いと語る。一方で斎藤氏は「営業がマーケティングの役割や価値を理解していないのは、マーケティング部門自身がそれを明確に説明できていない可能性もある」と指摘する。

日本独自の課題? 営業が強い組織における、マーケティングとの役割分担

マーケティングと営業の関係が良くないのは、日本だけの問題ではない。しかし、その形態は大きく異なる。外資系企業では、営業職の多くがフルコミッション制であり、正社員ではないケースも多い。一方で、マーケティング部門はCEOを多く輩出する戦略中枢の役割を担い、影響力が強い。その結果、マーケティング側がリードを渡す際にも優位性を示す傾向がある。

日本はその真逆であり、圧倒的に営業が強く、マーケティング部門の役割は限定的である。斎藤氏は、「マーケティング部門を持たない企業が依然として多い」と指摘し、特に日本のSIer企業ではその傾向が顕著で、DX特需により営業が主体的に動けるため、マーケティングの必要性を感じていないと述べる。この問題は営業側だけに原因があるわけではない。

AIの進化により、最も影響を受けるであろう分野であるにもかかわらず、マーケティングというセンサーを活かしきれていない(庭山氏)

AI駆動型開発の普及により、プログラミングの仕事は数年内に減少する。その現実に向き合わず、新たな顧客や市場の開拓を怠っていることが、営業とマーケティングの乖離を深めている(斎藤氏)

欧米ではAIがすでに幅広く活用されており、MAやSFAをはじめ、Webサービスや分析ツールにも組み込まれている。「人間相手だからAIは不要」という姿勢は矛盾している。営業職は、「お客様のために」にコミットする営業職だからこそ、相手のユニークネスや隠れた要望などをきめ細やかに捉え、提案していく必要がある。

AIが力を発揮するべき。RevOpsの理解なしに、目の前の顧客にツールを販売し、数字を追いかけるだけでは不十分だ(斎藤氏)

「RevOpsの重要性」を唱える斎藤氏

リードの質に関する認識の相違をどのように調整するか?

マーケティングの成果物である「リード」は営業に引き継がれる重要なKPIだが、「フォローがない」「案件として扱われない」といった不満を抱くマーケターが多い。中には「営業が欲しいのは、発注書を持った顧客だけではないか」と疑念を持つ人もいるが、実際にはそうではない。では、どうすればリードの受け渡しをスムーズに進められるのだろうか?

斎藤氏は「数字に対して貪欲で、人と会うことを基本としている営業職が本気で取り組むためには、リードの質が一定以上でなければ話にならない」と語る。しかし、リードの「質」が具体的に何を指すのか、営業とマーケティング間で明確に共有されていないケースが多い。

営業が追いたい案件とは何か。組織の業種や規模、キーパーソンの部門や役職など、徹底的に議論し、共有することが大切だ。『メールを2回クリックした人』という基準では営業の役には立たない(庭山氏)

具体的なターゲット設定が欠かせない。業界やサプライチェーンの位置、事業所、仕事内容、課題などを詳細に分析することで、効果的な施策を打てる。ここで重要な役割を果たすのが「インサイドセールス」だ。デマンドセンターで収集したリストから、有望な見込み客を特定し、関係を育むプロセスを担う。斎藤氏は「インサイドセールスは現場感覚を持つトップセールスでなければ難しい」と述べ、決して営業見習いが片手間で行える仕事ではない。

営業とマーケティングの共業プロセスについては、福田 康隆氏の著書『THE MODEL』(翔泳社)が参考になる。ただし「売上の7〜8割が既存顧客から成り立つ日本企業には必ずしも適用できない」と庭山氏。斎藤氏も「既存顧客との関係を構築し、大きな案件を取る営業にはそのまま当てはまらない」と語る。重要なのは効果的な手法を論理的に考え、実践する力だと結論づけている。

KPIが営業と一致していないがゆえの歪みはどう調整すべきか?

営業とマーケティングがリレーのようにつながるには、「受注」というKGIに向かい、KPIを明確に責任をもって設定・実践する必要がある。斎藤氏は「多くの日本企業は受注までのKPIが粗すぎる」と指摘。外資系企業では営業関連のKPIが細分化され、30以上に及ぶ場合もある。そのため、担当分野が明確で、KPI達成に必要なスキルや学習内容も把握しやすい。達成できなければ収入が減るため、営業は自律的に目標に集中できる構造となっている。

庭山氏は「SFAが日本に到来したとき、営業担当者が案件を登録しないという事態が多く発生した」と振り返る。一方、外資系企業では「案件登録がインセンティブの条件」とされ、BANT(Budget:予算、Authority:決裁権、Needs:ニーズ、Timeframe:導入時期)の情報が必須。これにより、営業が客先に足を運び具体的な情報を得る仕組みが成立している。

日本企業は『玉砕覚悟で行ってこい』という古風な価値観を捨て、戦略に基づいたKGI・KPIを設定し、プロフェッショナルが組織立って真剣に取り組むという考え方にそろそろ切り替えるべきではないか(斎藤氏)

どうすれば各ポジションで自律的に自身のモチベーションをあげて取り組めるのか、『自社の売り上げにつながる仕組み』を考える時期に来ている(庭山氏)

「緻密なKPI設定が重要」と語る庭山氏

顧客に関する情報共有は、どの粒度で行うべきか?

最後のテーマとして「Webにおける顧客に関する情報」について意見が交わされた。庭山氏は「多くの営業担当者が自社Webサイトを見ておらず、課題解決やケーススタディの情報が営業にとっても有用である」と指摘。一方、斎藤氏は「自分の関わる分野には詳しくても、自社全体の強みを理解している営業担当者は少ない」と分析。興味そのものが欠けている可能性を挙げた。

もちろんそれは由々しきことかもしれないが、営業担当者にそれを考えさせることは酷ともいえるだろう。

営業担当者がKPIとして担うのは、あくまで『売上』であり、誰に何を販売しても達成すれば役割を果たしたことになる。誰に何をどう販売するのかという戦略設計は、経営およびマーケティングの役割であり、ABMが担うものではないか(庭山氏)

そうした明示的な役割分担をするためには、KPIの設定の仕方が重要。製造業でもモノだけを売る時代は終わりつつあり、サービスとの融合、あるいはサービスがビジネスの主体となる。モノはサービスを実現するための手段としての位置づけになるのではないか(斎藤氏)

こうしたビジネストレンドの変化に対応するため、経営者はマーケティングや営業の変革を明確なメッセージとして伝え、KPIに反映させる必要があるという。

庭山氏は「どんなに製品やサービスが良くても、営業とマーケティングのアライメントが実現できなくては、日本企業は世界から取り残される。今回の議論が意識改革の一助になれば幸い」と結び、セッションを締めくくった。

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