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一文明圏としての日本列島――西尾幹二教授 - 電脳筆写『 心超臨界 』

電脳筆写『 心超臨界 』

我われの人生は我われの思いがつくるもの
( マルクス・アウレリウス )

一文明圏としての日本列島――西尾幹二教授

2014-12-19 | 04-歴史・文化・社会
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【 西尾幹二、文藝春秋 (2009/10/9)、p33 】

1 一文明圏としての日本列島

1-0 一文明圏としての日本列島

紀元前500年頃を中心にして、前後6百年ほどのあいだ、すなわち紀元前800年頃から紀元前200年頃に至るあいだに、人類の歴史のなかでは、東でも西でも、全人類に深くかかわる重要にして決定的に大きな一連の動きがあった。哲学の出現、科学の成立、高度宗教の誕生といったことがあいつぐ。この時代を、ドイツの哲学者カール・ヤスパースは「軸の時代」と呼んだ。人間存在がこぞってそれを中心としてめぐりつつ結集するところのひとつの理念的な軸を生み出した時代、というほどの意味である。

彼はこの「軸の時代」に、中国、インド、イラン、ユダヤ(パレスチナ)、ギリシャにおいて、別々にしかし同時代的に、驚嘆すべき人間精神の覚醒が経験され、自覚されたとみるのである。

  この時代には、驚くべき事件が集中的に起こった。シナでは孔子と
  老子が生まれ、シナ哲学のあらゆる方向が発生し、墨子(ぼくし)や
  荘子や烈子や、そのほか無数の人びとが思索した、――インドでは
  ウパニシャドが発生し、仏陀が生まれ、懐疑論、唯物論、詭弁術や
  虚無主義に至るまでのあらゆる哲学的可能性が、シナと同様展開さ
  れたのである、――イランではゾロアスターが善と悪との闘争とい
  う挑戦的な世界像を説いた、――パレスチナでは、エリアからイザ
  イアおよびエレミアをへて、第2イザイアに至る予言者たちが出現
  した、――ギリシャではホメロスや哲学者たち――パルメニデス、
  ヘラクレイトス、プラトン――更に悲劇詩人たちや、トゥキュディ
  デスおよびアルキメデスが現われた。以上の名前によって輪郭が漠
  然としながら示されるいっさいが、シナ、インドおよび西洋におい
  て、どれもが相互に知り合うことなく、ほぼ同時的にこの数世紀間
  のうちに発生したのである。
     【カール・ヤスパース・重田英世訳『歴史の起源と目標』】

このように述べたあと、ヤスパースはこれらの三つの世界全部において、人間が人間としての自己の限界をはっきり意識したことに精神覚醒の焦点を絞っている。人間は世界の恐ろしさと自己の無力さを徹底して経験した。それゆえに、そこから根本的な問いが発せられたのである。人間は深淵を前にして初めて解脱と救済への祈りに駆りたてられたのだった。自分の無力と自分の限界とを認識すると同時に、人間には最高目標が定められる。己の存在の深い根底を見据えるとともに、超越へ向かっての意識の制約性を経験するようになる。己の意識は、ここでいま一度、意識を意識し、思惟は再び思惟に向けられた。そういう自覚的体験が試みられたというのである。

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