【小説】CMS導入奮闘記――吉祥寺和男の挑戦

問題は「人」、それとも……

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問題は「人」、それとも……

実は、東小金井から得た情報によって、この代々木こそがガンであると吉祥寺は目星をつけていた。社内の各部署から上がってくる情報を広報的な視点で精査するのが代々木の仕事だった。薬事法がからむ問題については法務部と連絡を取り合いながら、社外に出せる情報と出せない情報を選別し、ウェブサイトにアップするゴーサインを出す。それが代々木の主な役割だったが、東小金井の話によれば、代々木は仕事が非常に遅いばかりでなく、ウェブサイトの活用を含むIT施策全般に対する理解が浅すぎた。また、彼はウェブサイトの運営を銘光社という自分の大学時代の同級生が経営するプロダクションに独断で発注していた。

代々木の「IT以前」の頭脳と公私混同。それこそがファミリー製薬のウェブサイトの質を低水準にしている元凶である――。それが吉祥寺の読みだった。だとすれば、代々木の意識を変え、場合によっては彼を現在のポジションから外し、彼の肝いりの外部業者を切って新しく優秀な業者に仕事を任せれば、万事うまくいくはずだった。

「意外と簡単にいくかもしれないな」

吉祥寺は頭の片隅で、自分が代々木に替わってウェブマネ課の課長のポストに就いている図をほのかにイメージすらしたが、すぐに「そんなに甘いものではない」という思いがやってきた。

「そんなに簡単なことなら、すでに実行されているはずだ。何かもっと、企業がウェブサイトを使うということに対する根本的なとらえ直しが必要なのではないか」

いずれにしても、まずは代々木と話をしてみることだ。しかし、代々木が吉祥寺の読み通りの男だとすれば、その対話から何かが生まれる可能性は低かった。やはり、自らの力でサイトの問題点とその解決法を探ることこそが、自分のやるべきことということか。そう考えれば考えるほど、吉祥寺は気が重くなるのだった。

神田は帰り支度を始めていた。すでに10時半になろうとしている。

「あーあ、どうすりゃいいんだろうな」

吉祥寺は、あえて神田に聞こえるように大きな声で、お決まりの独り言を言った。もしかしたら、それが神田とのコミュニケーションのきっかけになるかもしれなかいと思ったからである。神田も、すでにオフィスを後にしている代々木も、吉祥寺がどのようなミッションをもってこのウェブマネ課に送り込まれたかを当然知っていたし、彼がそのために苦しんでいることにも気づいているはずだった。

しかし、神田は吉祥寺の言葉には少しも反応せず、「お先です」と言って席を立った。

「お疲れさま」

相手に言っているのか自分自身に言っているのかも判然としない口調で吉祥寺が言葉を返すと、神田もやはり独り言のような口調でぼそっと言った。

「CMSかブログでも入れればいいんじゃないすか?」

「しーえむ……何て?」

吉祥寺はすぐに後ろを振り返ったが、すでに神田の姿はなかった。

苦悩する吉祥寺――自社サイトが抱える問題とは何か/CMS導入奮闘記#1

次回予告
第2話 神田の提言、中野の助言

代々木との話し合いは吉祥寺に1つの発見をもたらすが、それによってウェブサイトのリニューアルの方向性が見えたわけではなかった。吉祥寺は神田を食事に誘い、自分に与えられたミッションを改めて説明する。神田は彼にCMSの導入を勧めるのだった。突破口を得たと感じた吉祥寺は、営業部のエースで同期の中野一郎に連絡を取る――。

神田の提言、中野の助言――企業ウェブサイトが果たすべき役割は/【小説】CMS導入奮闘記#2
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