失敗しないためのCMS導入事例

行動データ×機械学習でWebコンテンツをレコメンド、導入効果を朝日カルチャーセンターに聞いてきた

CMSに蓄積した行動データと機械学習を連携させ、リニューアル目標の「見せる/魅せる」サイト化を達成

Webサイトの集客やコンバージョンなど、収益増の貢献に有効な仕掛けの1つであるレコメンドだが、「だれに」「何を」お勧めするかによって効果に大きな差が出る。このレコメンドに機械学習を取り入れて成果を上げているのが、教育事業を展開する朝日カルチャーセンターだ。CMSに蓄積したユーザーの行動データと、クラウド上の機械学習を連携させ、Amazonのようなレコメンドを実現しようと新しいテクノロジーを使いチャレンジしている。

Webも収益増に貢献するべき時代

朝日カルチャーセンターは、カルチャースクールの先駆けとして、「教養」「健康」「美術」「工芸」など、100ジャンルを超える6000以上の講座をリアルな教室で提供している。現在、新宿を旗艦として北海道から九州まで13か所に拠点を持ち、会員数は約13万人規模を誇る。

朝日カルチャーセンターのWebサイトは、10年前ほど前から開設されており、申し込みの3割程度はWeb経由だが、収益の落ち込みを背景にWebサイトのてこ入れが必要になった。

40年ほど前にカルチャースクールというものが登場した当初は、何もしなくてもどんどん生徒が集まってきました」と朝日カルチャーセンターの青木誠氏は言う。当時は、特に女性が文化的なことを学ぶ場はほとんどなく、講座を開けば受講者が殺到する状態だった。十分なスタッフ数と、広い教室スペースで運営されており、生徒を集めるための営業努力をするという習慣がなかったという。だが、近年は市場競争の激化もあり、そのままでは採算が厳しくなっていた。そこで、できるだけコストをかけずに集客する手法として、Webサイトの活用が注目された。

青木誠氏
朝日カルチャーセンター 経営企画室長 青木誠氏
リニューアルの目的
  • サイト:朝日カルチャーセンター
  • 課題:市場競争の激化、趣味嗜好の多様化によって講座の申し込み数が低下
  • 目的:コストを抑えた集客手法としてWebサイトを活用

当初、Webサイトの役割は申し込み窓口の1つという位置づけだった。親会社が新聞社なので、新しい期が始まるときにはその特集が新聞に載り、ほとんどの受講者は、その新聞記事を見て申し込みをする。そこで、いつでも申し込み可能な窓口として活躍していたのがWebサイトだ。つまり、集客するのは新聞で、Webは受付窓口の1つに過ぎないのだ。

とはいえ、Web検索で講座を見つけて申し込みをする人もこの2~3年で増えてきた。そこで、Webサイトも収益増に貢献できるようにするために、朝日新聞社でデジタル系を担当していた青木氏が、Web担当の企画室長として出向することになった。

自社サイトを見ないスタッフをデータで説得

旧サイトは、基幹の講座管理システムから情報を読み込んでWebサイトに表示する設計で、「Movable Type」で構築されていた。しかし青木氏は、「スタッフによっては、自分たちのウェブサイトをあまり見ていないこともあるのにびっくりした」という。各講座の担当者は、基幹システムに講座の情報を登録する。しかし、それがWebサイトに表示されることをまったく意識せずに情報を登録することもあったのだ。そのため、講座によって情報にばらつきが大きく、講座名や内容の説明がそっけなかったり、写真が小さすぎたり粗かったりすることがあった。

さらに集客への意識も高いとは言いづらかった。たとえば、非常にニッチな内容の講座でたまたま1人だけ申し込んできたという場合でも、開講されるケースもあった。旧来の集客手法では、どうしても限界があったのだ。

Webでの集客を計画し、Webでキャッチーなタイトルと興味を引くような説明をつければ、受講者は増やせたかもしれない。しかし、新聞社の社会貢献事業という側面もあるからか、受講者を増やす手法について、会社としての力の入れ方も弱かったのだ。

Webサイトが収益増に貢献するために取り組むのは、次の2つだ。

  1. 集客のために「見せる/魅せる」サイトにする
  2. 受講者の利便性向上と受付コスト削減のためにウェブ決済を導入する

「見せる/魅せる」サイトにするためには、スタッフの意識を変えることが必要だった。そこで青木氏は、まず「淡々としたコピー」と「キャッチーなコピー」の2種類を用意して、部長会などで比べてみせた。

しかし、なかなか響かなかった。「こうすればこれだけ良くなった」という、具体的な数字で示せれば意識が変わるのではないかと思った(青木氏)

Webサイトには、Google アナリティクスなどのツールは入っていたが、タグがきちんと実装されていない場合もあり、データが十分に取れていないこともあった。また、最初にWebサイトを構築した制作会社との契約は終了しており、抜本的な改善を加えることも難しい状況だった。

そこで、既存サイトの改修ではなく、全面リニューアルを行うことになった。

しかしタイミングの悪いことに、リニューアルを計画し始めた半年後に基幹システムの刷新が始まってしまった。Webサイトの講座情報などは、基幹システムからデータを読み込んで表示するため、基幹システムが変更されればその接続部分を変更しなければならない。

そのため青木氏は、Webサイトのリニューアルを遅らせ、事前準備としてWebに使うことを意識したデータのレギュレーションを基幹システム構築時に決め、先行して講座のWeb決済への対応を行った。

動画配信セミナーで見つけたサイトコア

プロジェクト概要
  • 期間: 約1年
  • 予算: 2,000万円
  • CMS: Sitecore Experience Platform
  • レコメンド: 機械学習「Azure Machine Learning」でCMSに蓄積したデータを分析し、趣味嗜好にあった講座を表示

サイトリニューアルは、プロジェクト期間約1年、予算2,000万円、5年で原価償却という計画だった。

CMSに必要な要件は、データ解析や旧サイトではできていなかったモバイル対応のほか、コンテンツマーケティングを実施するためのプラットフォーム的な役割も考えられていた。また、Web担当者は青木氏とデザイナーの2人体制なので、ITに不案内な講座スタッフでも扱えるようなものが望ましい。

そうしたなか、CMS選定の決め手になったのは、ある動画配信セミナーに参加したことだった。

セッションの1つとして「動画配信をするならこういうシステムでうまくいきます」という話をサイトコアさんがしていた。

それを聞いて、「動画配信とは異なるが、このシステムならやりたいことができるだろう」と思った(青木氏)

青木氏は、セミナーで紹介されていた事例からプロジェクトの目標を達成できると感じたため、他の製品はあまり検討しなかったという。ただ、価格的には予算をオーバーしそうだった。

それでも検討してみると、サイトコアから紹介された制作パートナーのネクストスケープが、一般的な企業が必要とする機能をパッケージ化したスターターパックを提供開始したところだった。これならば、いちから構築するよりもコストを抑えることができる。それでもパッケージだけで収まるとは限らず、青木氏は予算オーバーを予感していた。

とはいえ、リニューアルでは、後任の担当者も困らないようなきちんとしたものを作る必要がある。また、「業界のなかでも少ないWeb予算でやってきた方だと思うので、大切なリニューアルならばもう少しお金をかけてもいいだろう」と考えていたため、青木氏はサイトコアの導入に踏み切り、ネクストスケープをパートナーにリニューアルを進めた。

機械学習で魅せるレコメンド

「見せる/魅せる」サイトの一環として、レコメンド機能の導入も当初からの目標だった。

サイトコアには、レコメンドに近いパーソナライズ機能がある。しかし、朝日カルチャーセンターが開催している講座は3か月で1万にもなるため、レコメンドのルールを手作業で設定していくのは不可能だった。そのため、暫定的にシンプルなロジックで「レコメンドに近い仕組み」を提供することを検討していた。

しかし本来、青木氏が目指していたのは、受講者の過去の申し込み実績やサイト内の閲覧行動データなどから、お勧め講座をパーソナライズ表示できるような仕組みだ。端的に言えば「もっと、Amazonのようなレコメンドにしたい」というものだったが、それをネクストスケープのパッケージで実装しようとすると、開発費が高額になってしまう。

そのため青木氏とネクストスケープは、やむをえず高度なレコメンドの仕組みは後回しにして、まずはサイトコアをCMSとして使う形でサイトのリニューアルを進めていった。

この状況に一石を投じたのが、ひとまず無事リニューアルした新サイト公開の約2週間後に正式公開されたマイクロソフトの機械学習サービス「Azure Machine Learning(以下、ML)」だ。

大量の仮想マシンやHadoopのようなソフトウェアを用意しなくても機械学習による推論や予測、分析が可能になるサービスであり、レコメンド用の学習やレコメンド生成をする「マッチボックス」というモジュールも用意されている。

ネクストスケープの青木淳夫氏は、「稼働2週間で、サイトコアは安定してエラーも出ていない」という現状報告とあわせて、このAzure MLを使ったレコメンドの導入を提案したという。

機械学習について簡単に紹介したうえで、「サイトコア(Sitecore Experience Platform)がもともと持っていたDMP機能によって蓄積しているユーザーの行動データを使うだけで、レコメンドを実現できる」そんなサービスが正式公開されたという話をしました。

サイトコア自体もAzure上で構築していたので、Azureの機能追加をソフトウェア上で設定するだけで利用できます。クラウドなので安いし、効果がなかったとしても解約すればコストはさほどかからない。

私自身もこの仕組みには興味があったので、「試してみたいので、導入してもいいですか」という話をしました(ネクストスケープ 青木淳夫氏)

青木淳夫氏
ネクストスケープ 青木淳夫氏

本来であれば、基幹システムにある受講者のデモグラフィックデータや受講履歴などを使ったレコメンドが可能なはずだった。しかし、基幹システムの刷新作業はまだすべては完了しておらず、基幹システムのデータを利用するのは難しかった。

そこで、まずはサイトコアが持っているWebサイト上のユーザー行動履歴だけをMLに取り込んでレコメンドのロジックを生成することにした。サイト訪問者が「あるページを何回見たか」「どれだけの時間見たか」という2つの行動データで重み付けし、レコメンドを生成するものだ。今後、基幹システム側の準備が整ったら、そのデータを追加してより良いレコメンドにしていくこともできる。

MLによるレコメンドの構築は、2週間程度で済んだという。サイトコア側からML側にデータを送る際に、特別な加工も必要ない。

コスト的にも、MLのインターフェース利用料が月額1,000円程度、CPUの計算時間に応じた従量課金のランニングコストは1日10分間ほどなので数百円と、機械学習とレコメンドのための費用は、合計でも1月あたり2,000円に届かない額だ。他のレコメンド機能のサービスと比べても、格段に安価なレコメンドシステムだといえる。

オススメ講座
オススメ講座をパーソナライズ表示

リニューアルの効果と今後の展開

新サイトでは、講座の詳細ページにレコメンドの掲載枠が4つある。4つのうち2つは、同じカテゴリの講座を表示し、残り2つはMLによるレコメンドを表示する。あまり古いデータでは興味の対象が変わっている可能性もあるため、レコメンドには直近2週間分ほどのデータを使用している。

レコメンド枠
講座詳細ページの下には4つのレコメンド枠を設けている

レコメンド導入の効果としては、サイト全体のPV数は10%程度増加し、ページの滞在時間も伸びている。とはいえ、最初から完璧なレコメンドが実現できたわけではない。社内スタッフや制作会社の閲覧履歴が多く入り込んだために、レコメンドの精度が出ないというのが最大の理由だったが、チューニングを続けることで精度を向上させてきた。

滞在率
直帰率
CMS内の行動データと機械学習を組み合わせたレコメンドを導入し、滞在率と直帰率が改善

また、レコメンドの仕組みは、Webサイト上だけでなく印刷物でも提供できるため、DMで送付先ごとに適切な講座を自動的に差し込んで送ることもできる。カルチャースクールの受講生は最終的には教室に来るため、そのときにお勧め講座を紹介したペーパーを受講生ごとに作成して渡すという使い方も考えられる。

サイトコアは、Webコンテンツの管理システムというだけでなく、企業が保有するコンテンツを一元管理できるため、印刷物やメールへの対応も容易だ。

今後は、さらに個人ベースに落とし込んだトラッキングを考えている。具体的なアクションと改善の数字を提示できるようになれば、教室の運営だけが自分たちの仕事だと思っていた講座スタッフの意識を変えることができるかもしれない。Webサイトがビジネスに貢献することを互いに共有できれば、今後コンテンツマーケティングに取り組む際に、現場のスタッフの協力を得やすくなるだろう。

人ごとに、特にコンバージョンに至るまでの行動をきちんと見たことがないので、どのタイミングでコンバージョンに至るのか、そこに対してどう働きかけるとコンバージョン率が上がるのかといったことを、きちんとした数字にして各講座のスタッフに伝えられるようにしたい。そこで納得したうえで、協力してもらえる体制にしたい(青木氏)

事例企業株式会社朝日カルチャーセンター
  • 事業内容:国内最大級の生涯学習センター。教養、語学、趣味、実益、健康などにかかわる各種講座を設けて運営。
  • URLhttps://www.asahiculture.jp/
導入したCMS「Sitecore Experience Platform」
導入した機械学習「Azure Machine Learning」
用語集
DMP / クラウド / コンバージョン / コンバージョン率 / セッション / レコメンド / 機械学習 / 直帰率 / 訪問者
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