【レポート】デジタルマーケターズサミット2024 Summer

丸亀製麺の勝ち続ける戦略とは? MMMを採用して感性をデータで測り、マーケティングの勝率を高める!

MMM(マーケティングミックスモデル)を採用し、徹底したデータ活用を実施している丸亀製麺。感性とデータで勝率を高めるマーケティング戦略を紹介する。

丸亀製麺といえば、国内でも最大級のうどん店チェーンだ。各店舗で粉からうどんを作るなど、美味しさを追求する一方で、ブランディングやマーケティングにおいては徹底したデータ活用を実施。どの施策が、どの指標に効果を与えたのかを正確に把握するため、MMM(マーケティングミックスモデル)を採用している。そのマーケティング哲学、そしてMMMの具体像について、丸亀製麺の間部(まべ)徹氏が「デジタルマーケターズサミット 2024 Summer」で解説した。

株式会社丸亀製麺 マーケティング本部 エクスペリエンスデザイン部 間部徹氏

丸亀製麺のマーケティング戦略におけるキーワード

間部氏はコンビニチェーンで営業推進職を経験したのち、デジタルエージェンシーでデータアナリストに転身。現在は、丸亀製麺のマーケティング本部 エクスペリエンスデザイン部に勤務する。親会社にあたるトリドールホールディングスは、丸亀製麺だけでなく、Kona‘s Coffeeなどの複数ブランドを含めて、世界に2,000弱の店舗を有している(2024年8月現在)。

キーワード1:最重要はKANDO(感動)

丸亀製麺の理念や戦略をまとめたものが以下の図になる。

丸亀製麺の企業理念と戦略

スローガンは「食の感動で、この星を満たせ」、ビジョンは「感動体験No.1」、戦略は「KANDO(感動)トレードオン戦略」というように、随所で“感動”が用いられている。

私たちは“感動”をマーケティング戦略の中心においています。この背景には、顧客は集めるものではなく創るものであって、KANDO(感動)こそが顧客を創造する源泉価値だという理念があります(間部氏)

キーワード2:非合理の強さの追求=二律両立

さらに間部氏が付け加えるのが「非合理の強さの追求=二律両立」の視点だ。丸亀製麺は巨大チェーンでありながら、製麺を工場に集約することなく、各店舗で行っている。ある意味、非合理な選択かもしれないが、手づくりの意義は当然ある。「非合理であるほど参入障壁が高くなるため、結果的に、競合他社の追随を許さない独自のポジショニングにつながっている」と間部氏は強調する。

キーワード3:感性とデータサイエンスの両立

「感性とデータサイエンスの両立」も、大きなテーマだ。データだけを追い求めていては、感動を創りづらい。かといって感性だけに頼っては、施策の成功率が低くなりがちだ。そこで、本来なら背反する2つの概念を、いかに組み合わせて効率的に動かせるかを追求している。さらに、「短期の成長だけでなく、中長期での成長」も意識しているという。

「感性とデータサイエンスの両立」とともに、「短期だけでなく中長期での成長」も重要

私が常に意識しているのは、“ずっと勝ち続けられるようにしたい”ということです。持続的に成長し続けたい。凸凹ではなくずっと右肩上がりを目指したい。そのためには、自社の事業とマーケティング構造をしっかり理解する必要があると思っています(間部氏)

丸亀製麺のマーケターが考えていること

マーケティング戦略としては、主に、「新たな市場を創造する」と「選ばれる必然をつくる」の2つを考えているという。たとえば「丸亀シェイクうどん」「丸亀うどーなつ」などは、「新たな市場を創造する」商品だ。

選ばれる必然をつくる

では、「選ばれる必然をつくる」ためには、どのようなことを行っているのだろうか。

そもそも論として、外食産業は非常に競合が多い。そのため、消費者が店選びをする際に「丸亀製麺」を思い浮かべてもらうことが大事になる。いわゆる「エボークトセット(想起集団)」の理念だ。

お客さまが思い浮かべる選択肢の1つに丸亀製麺があり、さらに思い浮かべていただける回数が少しでも増えれば、ご来店いただく確率が増えるはずです。できるだけ選択肢の一番手(第一想起)になるようにしたいと思います(間部氏)

選ばれるには、選択肢の一番手にあがることが大事

人間の右脳・左脳を意識したアプローチもとっている。一般的に左脳は理性的、右脳は直感的な行動を司るとされる。たとえば「すべての店で粉からうどんをつくる」「職人の手づくり」などは左脳・理性へのアプローチで、選ばれるための“認識(パーセプション)”を醸成することにつながる。

対して、お店の雰囲気作りなどを通じて「美味しそう」「ワクワクする」と感じてもらうように工夫することは、右脳・直観へのアプローチにあたり、丸亀製麺を選ぶ“衝動”を創ることになる。

ブランド力を強くして右肩上がりをつくる!

さらに丸亀製麺では、「ブランド力」と「CX(店舗体験)」との掛け算で、マーケティング戦略を実施していこうと考えている。ブランドコミュニケーションで選ばれる“パーセプション”と“衝動”を創り、店舗ではそのブランドの“実感”を創るわけだ。

たとえば、2024年春にはブランドコミュニケーションの一環として、全店舗に「麺職人」と呼ばれる専門人材の配置を完了した。うどんの美味しさがさらに向上し、パーセプションが強化され、それにともなって「うどんが美味しい」というブランド価値の強化も期待できる施策だ。

さらに、1.5カ月ペース、年8回実施する期間限定フェアメニューによって、食べたいという“衝動”の山を創った。麺職人の全店配置でブランド価値のベースを高め、フェア商品で「お店に行きたい」という衝動を突き動かすわけだ。

期間限定フェアメニューで衝動を動かし、売り上げの山をつくる

データ活用の大前提とは?

さて、ここからは丸亀製麺のデータ活用の話になる。間部氏は、「データ活用は、持続的な成長のために勝つ確率を高めるために行う」ことを大前提とし、「スピードを意識している」と語る。そのため、未来はこうありたいという展望をし、仮説を立て、分析し、アクションを行っているという。

加えて、以下3つの基本理念が提示された。

  1. 変化し続けることで、持続的な成長が達成できる
  2. 未来を描いて、未来志向(アクション思考)のデータ活用
  3. 熱いデータしか扱わない(冷たいデータでは動かない)

このうち、3つ目の“熱いデータ”とはどういう意味だろうか。間部氏は「思い入れのあるデータ、血の通ったデータであってこそ、組織は動く。逆に冷たいデータ、遠いデータでは相手には伝わらない、動かない」と説明した。

丸亀製麺のMMMとは?

丸亀製麺ではデータを基点にマーケティングを考えていることから、次図に示すように、MMMをベースに分析し、意思決定に役立てている。

MMMを5段階で実施

マーケティングモデルの構築

まずはマーケティングモデルの構築を行った。効果測定の正確性を確保するための重要な作業だ。次図が、丸亀製麺のマーケティングモデルである。

丸亀製麺のマーケティングモデル

図について補足すると、最上部に設定されているのが、マーケティング上の最終目標である「持続的な成長」。最下部には「コミュニケーション/アクティベーション」「店内利用/テイクアウト」「従業員」などの項目があり、ここが各施策にあたる。

モデル図では、どの分野の施策を行うと、どのデータに影響がでるかが明確に示されている。基本的には(図の下方から上方に向かって)施策の実施 → KSF(Key Success Factor:重要成功要因)への反映 → 成長結果という具合だ。

BE(ブランドエクイティ)分析

丸亀製麺では、ブランディングと商品プロモーションを正当に評価するため、BE分析を用いている。いわゆる短期効果と長期効果を分けて分析する手法がBE分析である。

以下の図で、テレビCM出稿時の広告効果の事例を示しているが、赤が長期効果(ブランド蓄積効果)、上の山になっている箇所が短期効果である。先述したように、ブランディングによる右肩上がりのベースと、フェアによる山がしっかりと実現されていることがわかる。

BE分析の例

KSF(重要成功要因)分析

各種調査によって、事業成果につながるブランド重要指標「KSF」の検証を行っているが、そのための概要を示した図が以下になる。この分析により、たとえば利用回数をあげるためには、どれをKSFとすべきかがわかる。

KSFの分析の概要

戦術MMM

事業成果に影響を与える要素は1つではない。CMや広告の実施状況はもちろん、天候や人口変動によっても成果は変わってくる。そこで、要素ごとに影響度を調査。それらを積み重ねた結果、最終的にどうなったかを数値として把握できるようにしている。下図においてはA~Pが各要素で、右側の緑のグラフが総計値である。

成果に与える変数を総合的に分析し、可視化している

MMMでありがちな悩み

MMMは非常に複雑な構造である。いざ実践しようとしても「なんとなく難しそう」「データが少ない」「データを集めることが大変そう」「どのくらいの頻度で実施すればよいのかわからない」「何から始めてよいのかわからない」など、さまざまなハードルがあると予想される。そこで、それらについて間部氏から次のような解決案が示された。

なんとなく難しそう

MMMはあくまで分析の手法だ。「MMMの考え方や、分析の中身がわかれば、MMM自体は難しくない」と間部氏は指摘する。ただし何を計測するか、MMMの変数としてどれを扱うかについては、一定の知見が必要になる。

データをいかに用意するか

これはもう事前の設計で準備するしかない。だが、代替可能なデータが存在するケースもあるので、探ってほしいという。

MMM分析の実施頻度

MMM分析の実施頻度についての明確な回答はない。企業によっては年に1回、数カ月に1回というケースもある。ただし、関係者の間で「この情報では古い」といわれてしまっては元も子もない。「ビジネスに意味のある単位で検討してほしい」と間部氏は語る。

丸亀製麺における実施頻度は明かされなかったが「かなり短いサイクル」のようだ。年8回実施している期間限定フェアメニューの評価も、MMMで評価しているという。

MMMは何から始めればいいか

まずは自社のビジネス構造を仮説でもよいので構築してみて、どうすればビジネスが育っていくかを議論し、図に落とし込んでいくとよいという。

私たちの場合、モデルの設計に時間をかけてはいますが、常に難しい分析をしているかというと、そうではありません。なるべく簡単にシンプルにするのが一番。まずは絵を描いたり、矢印でつなげてみたり、そうしたところから始めています(間部氏)

戦術MMMのポイント!

丸亀製麺がMMMを利用する際に意識していることは、「MMMは手段であって、目的ではない」という点だ。その上で、次の2点について心がけている。

  • マーケティング全体の理解、仮説をもってデータと向き合う必要がある
  • スピードは価値。スピードを意識した運用をする

分析結果を解釈するのは最終的に人間であることを忘れてはならない。よって、しっかりと仮説を持ったうえで、分析結果に向きあわなければ、数字の意味を見誤ってしまう。

そして、「スピード」を意識することも重要だ。たとえば極端な話6割、7割の完成度でも、そこから改善したり、解釈を深めてより深い分析をしたりしていく。この姿勢で社内は常に動いているという。

「未来志向」と「現場主義」が間部氏のAnalysis Mind

未来志向

データを分析し、改善すべきポイントを割り出しても、周囲に理解されなかった経験はないだろうか。間部氏は過去の経験として、過去のデータを分析して改善ポイントを提示したところ、何を目指しているかが共有できておらず、「それは今知りたいことじゃない」「それは、今欲しいタイミングじゃない」などと返されたことがあったという。

だが現在の丸亀製麺では、「どうなりたいか」「感動をどう生むのか」進んでいく先が共有されている。「未来を創る」「未来をつかむため」にデータを活用して、仮説を立てて実証していく形をとっているので、データ活用もスムーズに行えているという。

販売実績などのデータは過去のデータですが、そこからどのような仮説を立てられるかに、むしろ力点を置いています(間部氏)

現場主義

そしてもう1つ、現場主義も必要だという。上がってくるデータを見るだけではない。営業担当者に会い、商品担当者に話を聞き、自ら店舗でお客様と対することもある。こうすることで事業を理解でき、なによりもデータに“想い”が入っていく。

最後に間部氏は、これからも顧客体験の向上とデータ活用で選ばれるブランドであり続けたいと述べ、講演を締めくくった。

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