すし匠(Sushi Sho)/ワイキキ(ハワイ)

都内でトップクラスの人気を誇り、「すし匠グループ」なる派閥まで築き上げた中澤圭二シェフ。旗艦の四谷店は後進に譲り、有能な弟子たちを引き連れハワイへと上陸。ザ・リッツ・カールトン・レジデンスのメインダイニング「BLTマーケット(BLT Market)」の奥にあります。
ワオ!大将が本当に目の前にいる!!料理界のレジェンドを前に背筋が伸びる。我々の緊張をよそに大将は気楽に出迎えてくれ、決して高飛車になることなく、あくまで一鮨屋のオッチャン的に接してくれます。気の良いお弟子さんたちが集まるわけだ。

ちなみに彼が新天地を求めた理由は「日本の魚が危機に瀕しているから」。世界の富裕層が日本の魚を常識はずれの価格で攫い無駄な暴騰に直面して久しいですが、なぜ日本の魚がそんなにも人気なのかというと、漁師の釣り方や中間業者のケアが世界一上手いからだそうです。その部分の底上げさえ図ることができれば、漁場は日本近海である必要は決して無く、海外にも可能性は広がるのではないかというロジックです。
ところで、酒の値付けは爆発的に高いです。ビール12ドルはまあ良いとして、一番安いグラスのシャンパーニュは25ドル、酒は半合で10ドル強〜、グラスの白ワインに至っては「ケンゾーのあさつゆなどいかがでしょう?」から始まるので、アルコールを愛する者ほど飲む気が失せてくる価格設定に感じました。

客層はここ数年訪れたレストランの中で最も悪く、不倫カップルと億り人ばかりであり総じて我が物顔です。ひたすらに予約困難店訪問マウンティングが続き、その他の話題はカネと車と不動産。お邪魔する前からある程度予見はしていましたが、ここまで酷いとは思いませんでした。
ワシントン牡蠣。サイズは小さいながら凝縮感があり、出汁の旨味と相俟ってグッド。
すし匠風のポキ。アラ・サーモン・アヒ(マグロ)のトリオであり、サーモンにバナナの葉の薫香をつけているのが面白かったです。
煮イカの印籠。いわゆるイカめしであり、ベーシックな味わいです。「さすが中澤さん!」みたいに拍手をし始める輩がいましたが、この皿でべらぼうに褒められても複雑でしょう。
シアトル産のミル貝にハワイ産のクレソン。味わいは中くらいですが、徹底的にアメリカ産に拘る点については哲学を感じました。ちなみにシャリの米はカリフォルニア産です。
小鯛のおぼろじめ。これは美味しいですねえ。一般的なタイに比べるとググっと味わいが強く、舌触りもザラりと独特。
ヤシの木の中心部分を活用したガリ。悪くはないのですが、ここまでする必要あるのかなあとも思います。普通にショウガでいいじゃん。
こちらではハプープと呼ばれるハタの一種。少し熱を加えられているためか、甘みが増してナイスでした。
アラスカのボタンエビを昆布締めで。コチラは問答無用で美味しいですね、アラスカ産だろうが日本産だろうが関係なく、間違いのない味わいです。
シアトルミル貝。ミル貝とても大きく育つ漁場だそうで、その肝の部分をレバ刺しのように食べるという試みです。
カッパーリバー(Copper River)という、アラスカのブランド産地のサーモン。味が濃く筋肉質。思ったほど脂っこくなくマッチョな味わいです。
ラウラウという、タロイモの葉で包んで調理するハワイの伝統料理のすし匠版。サーモンとアカマンボウにアスパラソースという出で立ちなのですが、これは、まあ、企画モノといったところです。
日本のマグロのヅケ。サクのまま漬けたマグロを滑らかにスライス。見るからに美味しいそうであり、そして実際に美味しかった。やはり日本のマグロは最強である。
メイン州のロブスターを紹興酒に漬け、酔っぱらいエビのすし匠版。これは素直に美味しいですね。ねっとりと官能的な舌触りに凝縮感に溢れるエビの旨味。
ストロング系の日本酒が合うだろうとメニューを眺めると、オレゴン産の日本酒がありました。かなり強烈なSAKEだとの案内もあり渡りに船と注文。なるほど強烈。飲んだそばから二日酔いになりそうな味わいでした。
サンディエゴのイワシをハワイの野菜と共に磯辺巻き。味の濃いイワシにシャキっとした野菜が素敵な組み合わせでありよりのあり。
大間の中トロ。これまでの努力が水の泡となりそうなほど、問答無用に美味しい魚です。ハワイでもマグロはよく採れるのですが酸味に乏しく、白ご飯と共にポキ丼にするには悪くないのですが、やはり酢飯には酸味のきいた日本のマグロが一番とのこと。
タロイモを用いたゴマ(?)豆腐に、アラスカのニシンの卵をトッピング。まさに創作料理でありアイデア勝利の一品でした。
ダンジネスクラブのにぎりには酢おぼろ。カニの旨味は一般的に暴力的であり、魚に比べると繊細さに欠けるので、このカニがダンジネスクラブであることに全く違和感はありませんでした。東京の一流店と遜色ない味わいです。
サンタバーバラのウニ。水分量が多くデロりとした個体であり、不思議な食感でした。
ハワイのキュウリでお口直し。
モイの飯寿司。ハワイの王族しか食べられなかった高級魚であり、「Roy’s」のRoy Yamaguchiシェフがその美味しさを世に知らしめた魚。しっかりとした脂が感じられ、なるほど鮨に用いても悪くありません。

ところで射精してるんじゃないかと思うほど感動にむせび泣いている客がいたのですが、もはや滑稽でしかありません。「面白い」「興味深い」「勉強になる」というコメントならわかりますが、「美味し過ぎて死ぬ」はちょっと違うでしょう。
ハワイ産のチェリートマトをピクルスに。キュウリもそうですが、野菜系は抜群に美味しいですね。野菜を用いたツマミについては日本のそれと同等かそれ以上でしょう。
オパと呼ばれる深海魚にフィンガーライムをトッピング。オパすなわちアカマンボウは沖縄では普通に食べられている魚であり、沖縄フリークの私にとっては親しみ深い魚なのですが、当店で食べるそれはまるで別物に感じ、これが江戸前の仕事かと思わず唸ってしまいました。フィンガーライムを絞り出すプレゼンテーションが楽しむ、何なら客にやらせてしまっても良いかもしれません。
ホワイトサーモンとウニの松前漬け風。ホワイトサーモンという魚を初めて知ったのですが、元々サーモンは白身魚であり、エサとして甲殻類を食べるので身がピンク色に染まるそうな。全てがねっとりとした食感であり、味も味付けも濃い。日本酒の進む味わいです。
10日間熟成させたトロ。酸味と旨味が増し、先のマグロとはまるで異なる味わいでした。個人的には魚の熟成には否定的でありフレッシュに食べたい派ですが、このにぎりに関しては絶品と形容して差し支えないでしょう。
いちご煮風の茶碗蒸し。いちご煮とは青森の郷土料理であり、その語感に反して具材はウニとアワビという最強クラスのお吸い物。当店は加えてキャビアや松茸まで放り込んで茶碗蒸しに。美味しいのですが、そりゃあ美味しいよねという感想です。
スイカを用いた奈良漬けにボストンのあん肝。これは個人的にはかなりツボ。奈良漬の大人の味わいに、それほどコッテリとはしていないニュートラルなあん肝がとても良く合う。
すし匠のスペシャリテ「おはぎ」。マグロの中落ちで小さなシャリを包みます。たくあんの食感やマウイオニオンの風味が小気味良いアクセント。マカデミアナッツをトッピングする遊び心もグッドです。
シャリを発酵させチーズのような状態に持っていき、いぶりがっこで包みます。これが米なのかと疑ってしまうほど濃厚な味覚であり、まさに料理とはサイエンスであると唸ってしまう一品でした。
カンピョウはユウガオの果実(ふくべ)を紐状に剥いて乾燥させた食品ですが、当店では青パパイヤで作り上げてみせました。いわゆるカンピョウと遜色のない味わいであり、ここに至る労苦が手に取るように理解できます。
ここからはお好みで5~6種類が用意されており、また、これまでに食べたものをおかわりしてもOKです。私はボストン産のホタテを注文。おまんじゅうのように厚いホタテにほんの少し熱を入れ、丁寧に包丁で飾ります。上品に甘く奥行きのある味わいで、ボストン産だろうが何だろうが、ホタテとして素晴らしく美味。
連れは大トロを炙りで。いやいやいや、これまでの実績からそりゃあ当然美味しいでしょうよ、でもそれをハワイに来てまでお好みで注文するってどういうこと?「一番おいしそうなものを注文して何が悪い。胃袋は限られているのよ」そして実際に一番美味しいとのことでした。
ギョクは2種。アオヤギの出汁を楽しむ出汁巻きに、タロイモと甘えびを練り込んだケーキのような作品。同じ卵料理とは思えないほどベクトルの異なる味わい。これだから料理は面白い。
お椀はアヒ(マグロ)の出汁。美味しいのですが、終盤のコッテリした味覚に対峙するにはパンチが弱く、また量も少なく感じました。
デザートにはモロカイの塩を用いたミルクアイス。上品な素材の味覚に舌鼓。そのままで良し、ブラウンシュガーの黒蜜をかけても良し。
連れは葛切りをチョイス。まさかハワイでこんなに本格的な葛切りに出遭えるとは。
お会計はひとりあたり400ドルでした。これはお酒をケチって飲んだ結果であり、いつものペースで飲んでいればひとりあたり5〜6万円は堅いです。そしてその価格に見合った美味しさがあるかというと、答えは絶対にノーです。

ハワイで地元の食材を用いてこのレベルの鮨を出せることは凄いとは思いますが、目をつぶって都内の名店と食べ比べると遜色ありまくりです。このお店の真価が問われるのは数十年後のはずであって、現段階をもって礼賛する風潮には甚だ疑問を感じます。長期的な文化貢献事業に寄付する貴族的パトロン的な心意気が無いと、満足を得ることは難しいはずです。

加えて私は純粋な美味しさや費用対効果を求めるタイプの人間なので、この程度の味わいの鮨に5万も6万も払うなら、日本の地方の名店を2〜3回訪れたほうがいいじゃんと考えるタイプ。誰が悪いとかではなく価値観の相違でしょう。私はメディチ家の一員ではないのだ。

さて、客層が最悪であることは既に述べましたが、基本的に一見の観光客が多くその全員が同時多発的にマウンティングを開始するので、お店側が会話をコントロールする余地は殆どありません。これはこれで仕方の無い部分が大きい。なので客側ができる唯一の対抗策は、(できるかどうか知りませんが)貸し切りにしてしまうことでしょう。

「すし匠!中澤!ハワイ!」と盲目的に訪れるのではなく、きちんと意義などを理解した上で訪れるべきお店だと感じました。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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