カモシヤ クスモト(kamoshiya Kusumoto)/福島(大阪)

大阪は福島の住宅街。食べログ4.32(2020年2月)でブロンズメダルを獲得してる有名店。普通のマンションの裏手、コインパーキングの隅にある影の薄い建物。隠れ家どころか隠されており、見つけ出すのに一苦労。ズラリと並んだワインの空き瓶が目印です。
「カモシヤ」とは「醸し」であり、味噌や塩麹、酒粕などの醸した発酵食品を多用します。合わせるお酒はもちろん醸造酒。
壁や天井は真っ黒であり、黒を基調としたカウンターバーのような雰囲気です。それもそのはず、店主の楠本則幸シェフは元バーテンダー。飲食店のお酒のプロデュースをしていくうちに料理に開眼し、独学でその道を歩み始めました。
18:30一斉スタートの1回転で遅刻厳禁。BGMは4分33秒と思わず背筋が伸びる。マダムが「ペアリングがオススメ」と胸を張るのでお任せすることに。この後、ちょいちょい言葉を交わすのですが、彼女はお酒、特にワインヲタクですねえ。ペアリングは1万円程度でかなり飲めるので、お任せしてしまったほうが1,000%お得です。
最初の1品は山椒科のコショウ(?)を振りかけた紅白なます。赤は紅心大根、白はモンゴイカです。モンゴイカにはリンゴを発酵させて造った黄身酢(?)が塗られており、なるほど先のビールのハチミツ感と溶け合いこれぞマリアージュという味わいです。
続いてはタラの白子。調味料は用いずトマトの果汁を用いた泡のみで味を整えます。合わせる酒は菊姫にごり酒であり、白子のクリーミーな風味の同一ベクトルに存在するかのようなペアリング。
カワハギの刺身を厚切りで。たっぷりの肝醤油を敷いた上で、守口大根の奈良漬けや柚子、ホースラディッシュで味覚に華を持たせました。旨味も香りも爽快感も素晴らしい。白眉は東一のワイン樽熟成の日本酒に中国のスパイスを漬け込んだ独自の酒。日本酒ながらも複雑な風味であり、目がチカチカするような風味が乱れ飛ぶ。
金目鯛の松前漬けを焼いたものでしょうか、調味に酢味噌とピーナッツを起用し味覚の重層化を試みる。酒はカーブドッチのオレンジワイン。松前漬けの風味と渾然一体なり、新たな味わいを築き上げた。
氷見のブリは石川県伝統の発酵食品「かぶら寿し」をイメージしているそうで、カブの代わりに大根を用いています。赤酢の温かいシャリの上に漬け込んだブリを乗せ、さらにはシャーベット状の大根をトッピング。酒は氷見「SAYS FARM」のロゼで伏線を回収していく試みでした。
白味噌のお雑煮。白味噌が沈殿したスープの上澄みのみを利用しているそうで、透明ながらもきちんと白味噌の風味が伝わる募集ではなく募っている状態。具材は聖護院かぶらに堀川ごぼう、ネギ、チシャ、もち粉を練って揚げたもの。それぞれ別々に炊いたという過保護とも言うべき調理であり、オーク樽で寝かせた満寿泉の貴醸酒と合わせると、白味噌にまた違ったふくよかさが加わります。
サワラを薄い衣で揚げたもの。フワフワとした食感に上海ガニの味噌で調味と贅沢な逸品。トッピングのしば漬けがカーブドッチのピノと良く合う。
メインはマガモ。炭火でしっとりと焼き上げた後に、アワビやタケノコを備え付ける。麻辣味を感じる思い切りの良い調味であり、隠し味に大徳寺納豆を用いるのも興味深い。酒は山形正宗の香ばしいヴィンテージものを。肉はもちろんですが、アワビがめちゃんこ旨かったなあ。
〆の炭水化物にはトラフグの白湯スープ麺。マダムからの「特濃」というパワーワードに基づいた解説がピッタリの力強い味わいです。皮などはXO醤で炒めて付け合わせに。冷酒に仕立てたヒレ酒の旨味感が半端なく、ランシールバグのように時空を超越した美味しさが感じられました。
デザートはキンカンへの射込み。デコポンのシャーベットやシェーブルチーズのアイス、サツマイモのきんとんなどが詰め込まれています。合わせる酒は新政の「見えざるピンクのユニコーン」とレアモノです。
古色蒼然ではなく明らかなクリエイションを感じるお店でした。料理という分野においては独学でもトップに立ててしまうのかと、ある種の衝撃を感じた食体験。他方、料理を出すテンポは遅くその内容も難解であるため、ゲストの理解力が求められる店。加えてお酒のペアリングを注文しないとこのお店の真価は捉えられないでしょう。酒好き旨いもの好きの食べ仲間と訪れましょう。色んな意味でオススメです。


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