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【 西尾幹二、文藝春秋 (2009/10/9)、p89 】

3　世界最古の縄文土器文明

3-0　世界最古の縄文土器文明

東北新幹線が仙台を出て北へ向かうと、一関市の手前に古川市がある。古川市から２０キロほど来たに築館という町がある。平成５年（１９９３年）、この町のなだらかな丘陵頂部から、約５０万年前と推定された石器が４５点発見された。この衝撃的な数字によって、築館町（現・栗原市）の高森遺跡の名はいっぺんに有名になった。＊

　　＊　アジアで最も古い部類に入る７０万年前の「原人」の遺跡発掘
　　として注目を集めていた考古学上のこの発見は、平成１２年（２０
　　００年）１１月５日、新聞のスクープにより藤村新一なるアマチュ
　　ア研究家の詐欺であったことが発覚した。この旧石器捏造事件によ
　　り、日本は世界に恥をさらした。『国民の歴史』はそれより前に執
　　筆刊行されたので、詐欺事件については触れていない。文庫化の新
　　版においては従って「高森遺跡」の一件を削除するのが通例の扱い
　　方だが、私はあえて削除しないことにした。私の立場が日本の歴史
　　学会や考古学会の安易な科学主義といかに違うかが、以下の叙述で
　　かえって明らかになると信じるからである。

それから１年後の平成６年（１９９４年）に、同じ築館町の上高森遺跡で、およそ６０万年前とみなされた地層から、火に焼かれた跡をもつ石器十数点が出てきた。さらに、後に、土中から環状に石器を並べた埋納遺構が発見され、やはり６０万年前のものと判定された。そして、平成１０年（１９９８年）になると、さらに古い年代の発見測定値が証明された。上高森遺跡で１０センチ深いところに埋まっていた１３個の石器に対して、約７８万年前までさかのぼることができるのではないかという値が割り出されたのである。

旧石器時代は前期と中期、後期に分かれるが、そもそも旧石器時代には、たとえ後期であろうとも、この日本列島に人類文化は存在しなかったし、存在しうるはずがないという固定観念が長い間日本考古学界を支配していたようである。ところが、今度の新発見は前記旧石器時代に属し、その年代はジャワ原人や北京原人と同じ「原人」に比定されるのである。しかも数値のうえでそれらよりもさらに古い人類の遺跡と考えられるのである。

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