■論説主幹・佐田尾信作 <原爆民訴疑ひ多しペン走り次第に解き行く或問(わくもん)と題して> 兵庫県芦屋市の閑静な住宅街を訪ねた。オバマ氏の広島訪問を控え、61年前に「原爆裁判」を提起した弁護士岡本尚一の歌集「人類」を手にしたいと思った。和紙に刷ってとじられた、箱入りの歌集に先の歌はある。一人の法曹の苦闘をしのぶよすがだ。 岡本は原爆投下を国際法違反とみなし、米国や投下の責任者を裁くことはできないか、世に問うた人。1953年、「拝啓人類と文明の為一書を敬呈することを…」で始まる冊子を広島と長崎の弁護士に送った。「原爆民訴或問」と名付けた想定問答集である。 <疑ひ多し>と詠んだように訴えの法理に100パーセントの自信はなく、意見を求める一文も付けた。実際には、日本は講和条約で賠償請求権を放棄したため米国を訴えることはできず、55年、下田隆一ら被爆者5人を原告とした日本政府への賠償請求訴訟に切り
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