text 情報自由論第8回 断片化し増殖する個人情報 著者:東浩紀 初出:『中央公論』2003年3月号、中央公論新社 プライバシーとは何か 携帯電話やクレジットカード、ATMの利用履歴、防犯カメラに映る無数の肖像、SuicaやETCが捉える移動情報、そしてインターネット・サービス・プロバイダへのアクセスログまで、私たちの日常生活は、個人情報のたえざる発信行為で支えられている。そして、私たちの身体を離れたそれら「データ・シャドウ」は、ときに私たちの意志とは無関係に処理され売買されている。このような個人情報の流通は、いまや、行政、民間を問わず現代社会のインフラそのものだと言ってよいが、同時にその急激な拡大は市民の多くを不安に陥らせている。そこで頻繁に現れるのが「プライバシー」という言葉である。 多少詳しい解説書には必ず書いてあるように、この言葉の歴史は技術の発達と深く関係している。プライバシー