無敗の格闘家でプロボクシングWBOアジア・パシフィック・バンタム級王者の那須川天心(26=帝拳)が24日、東京・有明アリーナで前WBO世界同級王者ジェーソン・モロニー(34=オーストラリア)との転向6戦目(119ポンド契約体重10回戦)に臨む。格闘家時代から含めれば公式戦52試合(今回が53戦目)を戦っているが、ボクシングでは6戦目。31戦目となるモロニーとの対決は「僕は今回6戦目。まあ普通は(対戦が)ありえないこと」と認めるなどチャレンジングと言えるカードだ。
普通ならば世界挑戦直前に組まれるべき対戦相手だろう。昨年5月、武居由樹(大橋)に敗れるまで世界王者だったモロニーの再起戦でもある。武居-モロニー戦と今回の那須川-モロニー戦は、ファンならば自然と試合内容を比較するはずだ。リスクのある前世界王者との対決に向け、那須川は「自分の中で燃える試合、相手に対して燃えるという試合が(ボクシングで)あんまりなかったので。非常に楽しみな試合というか。毎日ワクワクして時を迎えることができた」と声をはずませる。
モロニー戦に向けた公開練習や試合前会見で、那須川は何度か「今、世の中的に良いニュースがない」「ヒーローがいない」と憂いだ。そして最後に「そこを僕が先頭に立って」と。明るいニュースを届けられる子供たちがあこがれる存在になる意識を高めた。
年齢を重ね、大人になればなるほど現実に直面し、夢がなくなっていく。そんな夢を持てないような世の中にはしたくない-。常々「人生が普通に楽しい。めちゃくちゃ楽しい」と言い切る那須川だからこそ「楽しい世の中」を実現させたい。自らリスキーなファイトを楽しみ、勝つ姿勢をみせるつもりなのだろう。
23年1月、ボクシング転向を正式表明してから2年が経過。ボクシングへの愛も高まっている。
那須川 この1戦ですべて失うことにもあるし、全部持っていけることにもなる試合ができる立場。そこにいられるのはすごくうれしく思う。本当に勝つか負けるかで、今後の日本のボクシング界が盛りさらに上がるのか、盛り上がらないのかになってしまうというか。自分のためだけでじゃない。ボクシングのためでもある。僕はボクシングが好きなので。もっと盛り上げたいという思いある。僕だけが盛り上がっても意味がない。業界が盛り上げてこそプロだし、一流だと思っているから。そこの戦いになる。
さらに「ボクシングを知ってもらいたい。僕よりも年の上の方が見ている人が多い。それはもちろん大事にしつつ、僕のファンだったり、同じぐらいの年代の子がボクシングをやるということを僕は諦めていない」とも。那須川がきっかけで、ボクシングを始めたというケースを耳にしたそうだ。一時期、キックボクシングを学びながらも事情で辞めたものの、ボクシング転向後の那須川の試合を見て、高校からボクシング部に入部するという。
「何かのきっかけになっていることが最近は結構、耳にするのでうれしく思う」と那須川。ボクシング人気を若年層にも広げていくため、那須川はモロニーとのリスクの高い1戦を通じて「ヒーロー」へと駆け上がろうとしている。