王者の堤聖也(29=角海老宝石)が”同世代の友人”対決に2度目の引き分けで初防衛に成功した。高校時代から拳を交えてきた元WBC世界フライ級王者比嘉大吾(29=志成)と9回にダウンの応酬を演じた激闘を演じ、ジャッジ3者が114-114のドローで何とかベルトを守った。

比嘉の偶然のバッティングで右目上を早々にカット。流血との戦いで苦しんだが、最後まで戦い抜いた。

「比嘉選手が強かったのが前提の上ですが、自分自身が情けない思いが残る試合でした。怖さが出て慎重になったシーンだったり、自分の心の弱さが表れた試合だった。自分は強くありたいと思っている。理想の自分を出したいです。1ラウンド目から本気の比嘉大吾が伝わってきて、緊張感のある試合でした」

「結局、殴り合いになる」。試合前日、堤は試合展開をそう予想した。手数とスタミナで12勝中8KOをマークしている堤に対して、飛び込んで左右フックを強振する比嘉は21勝中19KO。堤は勝敗のカギについて「最終的に心と心の勝負になる」と断言していた。

数奇な運命で巡ってきた友人対決だった。同じ95年生まれの比嘉とは高校時代からライバル関係を超えた友人。高校卒業後にプロに転向して世界王者に駆け上がった比嘉は堤にとって「自分が(大学生の)アマの時に世界王者。刺激をもらえる存在だった」。

昨年10月に堤が井上拓真(大橋)に判定勝利を収めて念願の世界王座を奪取した直後にも昼食をともにした。そこで比嘉から「引退する」と告げられていただけに、初防衛戦の相手と聞いて驚いた。

試合決定後は連絡を絶ち「比嘉大吾の最後の試合だと思っている」と引導を渡す決意を口にした。それでも前日計量後の恒例のフェースオフで顔を突き合わせると「全力でやろう」と笑顔で誓い合った。

アマ時代は堤が2連勝したが、20年10月のプロ初対決は引き分けた。今回が世界王座をかけた決着戦でもあった。比嘉は昨年9月にWBO同級王者の武居由樹(大橋)に挑戦して判定負けしていたが「バンタム級でも世界王者になる実力がある。強い選手との試合という心構えでいる」と堤は警戒していた。

長年のライバルとのまさに死闘は決着つかず。「チャンピオンとして価値を上げる試合」と位置付けていた初防衛戦をクリアしたがもやもや感は残った。「今日の試合内容で統一とか、そんな器じゃないだろうと言われそうなので。だれにも文句を言われないほど強くなりたいです。勝ってないので大きいことは何も言えない。大きいことを言えるようにもっともっと強くなります」。夢に描くビッグマッチへの思いは封印。悔しさをバネにさらなるレベルアップを図る。【首藤正徳】

◆ラウンドVTR

1回 王者の堤が距離をとり、間合いをはかる。比嘉も無理に前へ出ず、相手の出方を試す流れ。主導権を奪い合う静かなファーストラウンドとなった。堤10-9比嘉

2回 堤が左リードからボディーで手数を出す。比嘉は大きく変わることなく慎重に攻める。一撃狙いが、比嘉の強烈な左フックがヒット。一方の堤は距離感を変えず。堤10-9比嘉

3回 堤が積極的にジャブを放ちながらプレッシャーをかける。比嘉は一瞬の隙をついての右アッパーもダメージは少なく。さらに右カウンターを浴びせる。堤9-10比嘉

4回 比嘉の手数が増える。ジャブ連打からの右フックがヒット。王者の堤は第1ラウンドからペースを変えず。偶然のバッティングで右目上付近から出血。ドクターチェックを受け試合再開。比嘉は負傷箇所を狙う作戦に。堤9-10比嘉

5回 堤はけがの影響か積極的に前へ出られず。比嘉は冷静に相手の動きを見極めながら強烈な左フックを浴びせる。堤の出血は止まらず。堤9-10比嘉

6回 距離を詰めての打ち合い。堤が接近戦で左フックから右を返す。比嘉は冷静に対処。左ジャブで負傷箇所を狙い、一発を狙う。堤も負けじと左禍前にスイッチをしながら連打を浴びせる。堤10-9比嘉

7回 堤がガードを固めながら前へ。圧力をかけながら左右ボディーを打ち分ける。比嘉は出てくるタイミングを狙って左ストレート。さらに右のオーバーハンドを狙う。堤9-10比嘉

8回 堤がゴング直後から積極的に前へ出る。ワンツーの連打も比嘉から大きなダメージは奪えず。逆に比嘉が強烈な左フック。堤の出血ダメージは広がる。堤9-10比嘉

9回 堤のセコンドから「ここから(ポイントを)全部取るぞ」の指示。その言葉に呼応してゴング直後から距離を詰めてのラッシュ。比嘉は冷静にさばき、左フックでダウンを奪う。しかし2分30秒過ぎには堤が右アッパーでダウンを奪い返す。その後も猛攻で攻め込む。堤10-9比嘉

10回 堤がゴング直後から猛ラッシュ。巧みに構えをスイッチし、圧力をかけて追い詰める。比嘉は前の回に喫したダウンのダメージは隠せず。手数を減らす。堤10-9比嘉

11回 比嘉陣営のセコンドが「ここをとればチャンピオンだ」とげきを飛ばす。しかし、王者の堤が手数で勝り、連打を浴びせる。その堤が強烈な右のカウンター。その後は意地の打ち合い。堤10-9比嘉

12回 堤が左アッパーの連打。比嘉は完全に受け身となり、クリンチを多発。ラスト10秒も堤が手数で上回る。判定はジャッジ3者とも114-114。堤が引き分けで初防衛となった。堤10-9比嘉

◆堤聖也(つつみ・せいや)1995年(平7)12月24日、熊本市生まれ。中学2年からボクシングをはじめ、九州学院高から平成国際大と進み、国体準優勝6度の全国3位などアマ戦績は84勝(40RSC)17敗。18年にワタナベジムからB級(6回戦)でプロデビュー。19年に角海老宝石へ移籍。22年に日本バンタム級王座を獲得し、4度の防衛成功後の24年1月に返上。23年の同級モンスタートーナメント優勝。同年10月にWBA世界バンタム級王座獲得。趣味は古着集めと料理。家族は母邦代さんと兄姉。身長166センチのスイッチボクサー。

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